はじまり その日はアンリミテッドシャイニングとエンシャントダークの合同練習が行われた。 一度だけの試合では2-0とアンリミテッドシャイニングが勝利を得て、エンシャントダーク―――特にそのキャプテンは、悔しそうに足元に視線を落とした。 (何が悪かったんだろう。負けた理由はなんだ) 合同練習も終わりを向かえ、ぞろぞろと消えて行くチームメイト達の中シュウは一歩も動かなかった。 それに気がついたカイがシュウの肩を軽く叩く。 「どうした、シュウ」 シュウは漸く顔を上げるが、カイを見ずに「なんでも」とだけ返した。 いくらチームメイトでも自分の弱いところは見せたくない。そんなプライドからシュウはカイに自分を放っておくように言い、近くに転がったままのサッカーボールを適当に蹴った。 蹴ったボールは地面に落ちることなく、少年の手の中へ。 「…白竜」 シュウがボールを蹴った先には、ボールを持ったままシュウを見据える白竜がいた。 気がついたら、白竜とシュウの二人だけになっていた。 「何故戻らない」 凛としたその声に、シュウはため息をつきたくなるのをぐっと抑える。 (それはこっちが聞きたいよ) シュウが黙ったままでいると、白竜が真っ直ぐな足取りでシュウへと近づいてきた。 近づくに連れてはっきりと見えた白竜の顔は整っていて、シュウはなんとなく見てはいけない気がして視線を反らした。 それを白竜は気まずさから視線を反らしたのだと勘違いしたため、なんとなくばつが悪くなる。 「シュウ」 名前を呼ばれ、シュウは反射的に「なに」と返事をした。 夕陽に照らされた白竜は、どこか憂いを帯びていた。 「話がしたい」 薄く開かれた白竜の声は、やけにクリアに聞こえた。 「はなし?」 シュウは首をかしげる。 「なんで」 「興味があるからだ」 お前に、と言った白竜に、シュウはますますため息をつきたくなる。が、ここも我慢する。 「お前はいきなりゴッドエデンに現れて、そのままエンシャントダークに入ったが――」 白竜が一置きして続ける。 「俺が今まで見たことのないサッカーをする奴だと思った。だから、興味がある」 そんなことを言われても。 ため息の次は頭を抱えたくなった。 「別に、普通だよ。普通に強いんだ、僕は」 シュウが投げ遣り気味に言うと、白竜は「普通」と反復させた。 「お前が言うなら、そうなんだろうな」 以外とあっさり受け取った白竜に、シュウは思わず拍子抜けする。 (なんだか白竜って) 「面白いかも」 「は?」 やば。シュウは急いで手で口を隠す。 が、時すでに遅し。シュウの声ははっきりと白竜に届いていた。 「面白い?」 なにが、と言いたそうに白竜がシュウをじっと見る。 「いや、君がね。面白いかも、なんて」 「俺が、」 白竜は黙ってしまい、シュウは慌てた。 「白竜は真面目に受け取りすぎだよ」 「そうか?」 「そうなんだって」 そうか、そうなのか。白竜が呟きながら顎に手を添える。 「もうちょっと疑ってみたら?」 「…努力する」 努力って! (やっぱり面白いや) シュウが笑うと、白竜は面食らったように目をぱちぱちと瞬きさせた。 「今、笑うところ、あったか」 白竜がしどろもどろに言った。 「ん?いや、無かったよ?」 「嘘だな」 「早速疑ってかかるか」 やっぱり君は真面目だよ。 シュウがそう言うと、白竜は照れたようにそっぽを向いてしまった。 そして赤い夕陽に徐々に闇が深まってきた頃、シュウは白竜の腕を引いた。 「もう戻ろうよ。日も暮れちゃうし」 白竜は掴まれた自分の腕を見ながら「冷たいな」と言った。 「いいじゃないか、冷たくたって」 「こんなに冷たくなるものなのかと思ってな」 冷たい風が二人の間を通り抜け、シュウが眉を寄せる。 「仕方がないじゃないか。寒いんだから」 「そうか」 刹那、白竜が空いていた手でシュウのもう片方の手を握った。 「白竜?」 「寒いんだろ?」 シュウより一回り大きな白竜の手は、僅かだが熱を帯びていた。 「あたたかい」 「まあな」 白竜は至って真面目な表向きで言ってみせる。 何故彼は誇らしげなのだろう。 シュウはまた笑いそうになるのを必死に堪える。 「ありがとう」 シュウが感謝をのべると、白竜は何も言わず手を離し、シュウから一歩距離を置いた。 「もう戻れ。暗くなる」 「白竜は?」 「俺は、あと少しだけここにいる」 だからお前は戻れ。白竜は少し強めに言った。 シュウは特に気にするでもなく、白竜に「分かった」とだけ告げて背を向けた。 僅かに赤みを帯びた白竜の顔は、夕陽のせいなどではなかった。 |