無回答 薄い液晶の向こう側では、大人のオトコとオンナが交じりあっていた。 あんあん喘ぐ胸の大きな女に、体格のいい男が覆い被さっている。 それは何をしているのか、ここにいる少年達は皆分かって見ていた。 白竜はくだらないと思った。何が楽しくてこんなものを観なくてはならないのか。 前に座っている数名は興奮気味に画面にかじりついている。 そもそも何処から仕入れたのか。教官たちに告げ口をするつもりはないが、あんまりこういったものに夢中になられると困るな、とぼんやりと考えていた。 ふと、隣に膝を抱える様にして座るシュウの様子がおかしいことに気がついた。 「シュウ」 声をかけると、シュウは肩をびくりとさせ白竜に視線を移した。 「あ、なに?」 元気の無い返事に、白竜はシュウの気分が悪いのではないかと考えた。 自分だってこれを見て気分を害しているのだ。きっとシュウもそうに違いない、と。 だから白竜は、シュウに「出よう」と他の少年達に気付かれないように小声で言った。 シュウは小さく頷いた。二人がそっと部屋から出ると、お互い自然と大きなため息が出た。 そして白竜は自室へ帰ろうとしたら、シュウはその場に座り込んでしまった。 「どうかしたのか」 やっぱり気分が悪いのではないかと白竜がシュウに触れようとしたら、彼は白竜に背を向け立ち上がると「ごめん」とだけ言い残し立ち去ってしまった。 「シュウ…?」 シュウが向かった方角は、彼の部屋ではなく外へと続く道だった。こんな時間にどこへ行こうと言うのか。もう時刻は深夜をまわろうとしているのに。 白竜はなんとなく嫌な予感がして、シュウの後を追った。 外へ出てみたが、シュウの姿は無かった。 まさか森へ向かったのだろうか。白竜はますます嫌な予感しかなかった。 別にシュウのことなど放っておけば良いのに、どうしてか今は彼のことしか考えられなかった。 その理由は、あの部屋で見たシュウの切羽詰まった表情が気になっているからだと、白竜は自覚していた。 仕方無しに森へ入ると、すぐにシュウは見つかった。木にもたれ掛かっていた彼は、やはり苦しそうだ。 白竜に気がついたシュウは驚いたのか、「白竜!?」と大きな声をあげた。 「なんで、ここに」 「いきなり部屋と反対方向に走ったりするからだろ」 白竜が近づこうとすると、シュウは「来るな!」と叫んだ。 今度は白竜がその声に驚くと、シュウはすぐに謝った。 「ごめん、白竜…僕、」 シュウが白竜に背を向け、再び「ごめん」と呟いた。 「何を謝るんだ」 「だって僕、おかしいんだ」 何が、とは言わなかった。 「理由も言わずに謝られても困る」 白竜が肩をすくめ、シュウを見据える。シュウは白竜に向き直ると重い口を開けた。 「…さっき、あいつらと変な映像を観ただろ」 「ああ」 AVのことか、と白竜が言うと、シュウは顔を真っ赤にさせて俯いてしまった。 「それがなんだって言うんだ」 あんなものを見た罪悪感があると言うのか? だとしたら俺だって同罪だ。白竜はわけが分からなかった。 そして、虫の羽音の様な頼り無い声でシュウは言った。 「あれを観てるとき、白竜のことが頭から離れなかった。悪いとは思ったし駄目だとも思ったけど、離れなかったんだ」 それだけ言い切ると、シュウは再び白竜に背を向けた。 「だから、気分悪そうにしてたのか」 俺への罪悪感から、と白竜は言った。 「うん、だから…一人にしてほしい」 こんなの、おかしいよね。軽蔑するよね。 その涙ぐんだ声を聞いて、白竜はぞくりとした。 今、自分が会話をしているのは誰だ。いつもの余裕たっぷりのライバルはどこへ行った? 白竜は、今のシュウがいつものは違う全くの別人に思えた。 「シュウ」 名前を呼び、彼の制止は聞かずに肩を掴んで無理矢理こちらを向かせる。 すると白竜を見る彼の顔は紅潮していて、どこか少女めいた雰囲気を感じた。 「俺のことだけ考えてろ」 何故そんなことを口にしたのかは分からない。ただ、目の前の少年への独占欲が湧いて止まなかった。 「白竜、」 か細い声を遮るように唇を重ねた。ぬるぬるした舌を拒むようにシュウが逃げようとする。 サッカー選手にしては細い腰を抱き寄せると、シュウの意識がそっちに向かった。すると白竜を拒んでいた舌がすんなりと受け入れるようになった。 「ん、ぁ」 甘い声が溢れるのを聞いて、白竜は先ほどの映像を思い出した。 シュウ、お前だけじゃない。俺だって、お前を。 だがそれを口にする気は無い。 白竜は長いキスを終えると、腰に回していた手を片方だけシュウの上衣の中へと滑らせた。 「ひっ」 色気の無い声が聞こえ、白竜は眉を寄せる。 そのまま胸をいじると、シュウは苦し紛れに「僕、胸ないよ」と言った。 白竜は呆れを含めた笑いと共に「でも気持ちいいだろ」と囁いた。 シュウは何も言わない。白竜はそれを肯定と受けとり、下へ下へと手を滑らせる。 はっと我に帰ったシュウが白竜の肩を押す。だが、体格の違いからびくともしない。 「やだ、白竜」 それは聞き入れられず、白竜は下へ潜らせた手でシュウが必死に隠そうとするものを指の腹で撫でた。 「あ、ぅ…」 びくりとシュウの肩が跳ねる。 「男に触られて気持ちが良いのか」 「だって、白竜だから」 シュウはもう抵抗を止め、白竜に身を任せていた。白竜にしがみつき、立っているのがやっと状態だ。 「白竜、ぼくは」 その続きを聞きたくなかった。 だから自分にしがみつくシュウを剥がし、後ろの木に彼を逆向きにして押さえつけた。 そのまま下着とズボンを同時に下ろし、これから白竜を受け入れる場所に触れた。 「あ、ぁ」 指が一本、二本と入るたびにシュウは喘ぐ。その姿が白竜の中で、ベッドの上で喘いでいた女と重なった。 (どうなってしまったんだ、俺は) 白竜は焦った。ライバルに、男に、シュウに欲情するなんて。 ぬぷりと指を曲げると、狭い壁が吸い付いてくる。 「ここが、いいのか」 そこに掻くように触れると、シュウは弱々しく肩を震わせた。 「や、白竜…」 「お前が離さないんだろ」 わざと耳に顔を近づけて言うと、シュウは涙を含んだ目で白竜を睨んだ。 そう、その目だ。白竜は自分が興奮していることを自覚した。 いつも挑発的なシュウが、今は自分に何も抵抗できずに成すがままにされているなんて。 後ろを探る指は止めないまま前も触ってやると、細い体はびくんと大きく跳ねた。 「は、白竜、ぅ」 白竜は、ぐちゅぐちゅと音をたてながらシュウの首筋にキスをした。 きつく吸い付いくと真っ赤な花弁が散り、もっと彼を酷くしてやりと醜い欲望が出てきた。 「あぁ、ん、…」 必死に声を押し殺そうとするシュウに白竜は変に興奮した。 指を抜いて立ち上がったそれをシュウにあてがう。シュウは喘ぐ以外にもう何も言わなかった。 「抵抗しないのか?」 ゆっくり押し進めながら訊くと、シュウはふるふると首を横にふる。 「だって、もう無理なんだから…」 痛みに耐えながら、か細い声でシュウが言った。 「僕は、白竜がほしいよ」 その言葉が引き金だった。 ひどく独占欲がわいた。はやく脆い彼を滅茶苦茶にしてやりたいと。 肉の薄い腰を掴み一気に奥まで突くと、たまらずシュウは声をあげた。 「! やぁ、あ、はくりゅう」 「…ッ、」 何度もピストンを繰り返している内に、白竜もシュウも頭が働かなくなっていた。 それが理由かは分からないが、気がついたら白竜は「好きだ」などと口走っていた。 (俺は、こいつのことが好きなのか?) 言ってから考えた。自分のシュウへの好きは、シュウの望んでいるものと同じなのか、と。 「はぁ、ん、白竜ぅ」 動きが止まっていると、シュウの腰が揺れた。 「ぼくも、好きだよ」 はやく、と言いたげにシュウが白竜をキツくする。 「好き、好きなんだ」 「…シュウ」 腰を抱え直し再び奥まで突くと、シュウが一際大きな声をあげた。 「シュウ、俺は」 同時に白竜も果てていた。 シュウから抜き取ると、どろりとした液体が溢れ出てきて改めて自分達が何をしていたのかを自覚する。 シュウはその場に座り込み、肩で息をしていた。 小さな背中だった。本当にこんな男が自分と同等またはそれ以上の力を持っているのかと疑いたくなるほどに。 「…立てるか」 白竜が声をかけると、シュウは「無理」とだけ返事をした。 仕方なしに白竜が隣に腰をおろすと、シュウが薄く口を開けた。 「白竜、本当なの?」 「何が」 「好きだ、なんて」 横目で見たシュウの顔は赤い。 なんだよ、その顔。 それじゃあまるで、本当に…。 「好きだと言えば、お前は満足するのか?」 「さぁ、分からない」 シュウは自分の肩を抱き、夜空を見上げた。 「ただ、白竜が欲しくて欲しくてたまらなかったよ。これが何て感情かは知らないけど」 「無責任だな」 「だって、僕らは感情を捨てるように訓練されているのに」 白竜には返す言葉が思い付かなかった。 確かに感情など無用だと教えられてきた。 だが、果たして全てを捨てきれているのか? 「分からないけど、何も分からないけど」 シュウが白竜に向き直り、その胸にしがみつき顔を埋める。 「ただ、白竜が欲しかったんだ」 白竜は、ぎゅ、と服を掴むシュウを抱き寄せた。 何故そうしたのかは分からない。 ただ、目の前の一人の少年を守ってやりたい。 それだけは確かだった。 |