恋人ごっこ 「きもちいい?」 シュウの声が浴室に響く。 白竜は何も言わず、ただ頭の上のシュウの手の動きだけ感じていた。 そもそもの始まりは、「一緒にお風呂に入ろう」と言うシュウの一言からだった。 にこにこと人懐っこく言うものだから、白竜は首を横にふることが出来なかったのだ。 「白竜は髪が長いから大変だろう?」 シュウが白竜の後ろにまわり、頭に手をのせた。 別に大変だと思ったことは無かったが、練習の疲れもあってかシュウがやってくれると言うのなら構わなかった。 わしゃわしゃとシャンプーが泡立ち、シュウが「痒いところはありませんか」なんてふざけた口調で訊いてくる。何を楽しんでいるんだ、こいつは。 上からお湯をかけられ泡が流れ落ちると、耳元でシュウが「おしまい」と甘く囁いた。 「ね、どうだった」 「どう、って」 何が言いたい? 「今度は白竜が僕を気持ちよくしてよ」 振り向くと、シュウがするりと首に腕をまわしてきた。 だから白竜は、近くにあったスポンジでシュウの体を洗ってやる様に擦った。 最初は背中だった。その途中で啄むようなキスを繰り返した。 スポンジを胸に移動させて一点ばかり強く擦ると、シュウの細い体がびくびくと震えた。 「やだ、ってば」 知るか。お前から言ったくせに。 白竜は心の中で毒づき、そのままスポンジを内腿に移動させ、今度はゆっくり撫でるように擦った。 「ふ、ぅ」 溜め息のような、吐息のような。そんな声が聞こえてくる度に、白竜はシュウを滅茶苦茶にしてやりたくなった。 いつしかスポンジは捨てられていて、白竜は素手で褐色の内腿を撫でていた。 「…いつまで、やってるの」 しびれを切らしたシュウが言う。中心はとうに主張し始めていた。 それは白竜も同じで、手を内腿から後ろに滑らせた。 「我慢なんかしてられないだろ」 白竜が意地悪く言うと、シュウは白竜の肩に顔を埋めた。肯定の合図だ。 狭いそこに指を忍ばせるのは、石鹸の滑りもあってかいつもより楽だった。 ぬるぬると奥に進むと、シュウが挿れるのかと訊いてきた。 今になってそれを言うのか、と白竜は思ったが彼が拒むのなら無理強いはしたくなかった。 「お前が嫌なら止める」 「嫌だけど嫌じゃない」 どっちだよ。白竜は困惑した。 「白竜をもっと感じたいのに、やってはいけない気がするんだ」 それは、今まで何度も体を重ねてきた相手の言葉ではなかった。 「今更なに言ってる」 もう自棄になってきた白竜は、指の動きを再開させた。 二本、三本と指が増えるとシュウの膝はもうガクガクと体勢を保つのが難しくなってきていた。 「はくりゅ、はくりゅう…」 シュウが儚げに名前を呼ぶ度に我慢は頭から飛んでいった。 指を抜くとシュウが自ら白竜に馬乗りになり腰を落とした。 「…シュウ」 シュウは小さく震えながら、ゆるゆると腰を動かし始めた。 「はぁ、ん」 ぐちゅぐちゅと音をたてながらピストンを繰り返す。もう互いに理性など残されていなかった。 「シュウ、シュウ」 手を伸ばして闇色の髪に触れた。やわらかい髪は白竜の指に絡み付く。 「ん、はくりゅう、もっと」 もっと気持ちよくして。 シュウが言った途端に、白竜は果てた。 シュウも同時にぐったりと白竜に倒れ込んでしまい、白竜はなんとなく悪いことをした気分になった。 シャワーで体を洗い流すと、今までの情事は全て無かったことのように思えた。 |