お前のせいだ 白竜が森の奥に進むと、大きな木の下でそこに身を寄せるようにしてシュウが眠っていた。 白竜は呆れた。姿が見えないから探しに来てみたら、これだ。 近付いて名前を呼んでもシュウは起きない。叩き起こしても良かったのだが、それはそれで面倒に感じたから止めることにした。結果、白竜はシュウの隣に腰を下ろす形になった。 すぐ隣で寝息をたてる男は、なんとも無防備な寝顔で時々むにゃむにゃと口を動かしている。 どこまでマイペースなんだろう。白竜はシュウが掴めなかった。 辺りが暗くなってきてもシュウは起きなかった。さすがの白竜も俺は何をやっているんだろうと頭を抱えたくなった。 こんな奴、さっさと叩き起こして戻れば良いのに。何故かここを動けない自分に苛立った。 その時、シュウの頭が傾き白竜の肩の上に乗った。白竜がシュウを支えることになってしまっていた。 ますます動けなくなってしまった白竜は、シュウの頬を摘まんでみた。だが、シュウは眉を寄せるだけで起きなかった。 白竜はもうどうでも良くなってきて、隣の寝坊助にとことん付き合うことにした。 起きたときに文句を言ってやれば良い。そうすればこの苛立ちもおさまるだろう。白竜はそう思った。 そして、時間が流れるにつれて白竜の意識は遠退いていった。 夜もとっくに更けてしまったから仕方がない。白竜はぼやけた頭で自分にそう言い聞かせた。 目を覚ますと、そこにはシュウの顔があった。 「やぁ、おはよう」 白竜は訳がわからず、ゆっくりと体を起こした。 そこで白竜に疑問が浮かんだ。意識が飛ぶまではシュウが白竜に寄りかかっていたのに、自分は今横になっていた体を起こした。 振り返ると、シュウのお気楽な笑顔。 そして、先程まで自分の頭があったであろう位置には、正座しているシュウの太ももが…。 「どういうことだ」 白竜が訊ねると、シュウは笑った。 「白竜、膝枕って知らないの?」 そんなことを訊いているんじゃないのに、白竜は何も言えなかった。 膝枕。何故、そんなことに。 何も言わずとも全て分かっているかのようにシュウが口を開いた。 「白竜がなかなか起きないから、そのままの体勢じゃきついと思って」 どの口が言うか! 白竜は怒鳴りたくなったが、その前にシュウが「いてて」と情けない声をあげたため言うタイミングを逃してしまった。 「どうかしたのか」 シュウは伸ばした自分の足を見ながら「痺れちゃった」と言った。 チャンスだ。白竜はシュウの膝をつついた。 「わぁ!」 シュウの悲鳴があがった。朝日に照らされながら、シュウは涙目になっていた。 「誰がなかなか起きないだと?」 また白竜が膝をつつくと、シュウは「許して」と震えながら言った。 「お前のせいで森の中で朝を迎えちまった。どうしてくれる?」 「ごめん、謝るから…」 また膝をつつくと、耐えきれなくなったシュウは地面にパタリと倒れた。 白竜がその上に四つん這いになると、シュウがまた「ごめん」と言った。 「ね、許してよ白竜」 「嫌だね」 意地悪だなぁ、とシュウは唇を尖らせた。 まだ痺れるのか、シュウは涙目で小さく震えている。 なんだかか弱い小動物をいじめているように思えてきて、白竜はシュウから退いた。 「もう、戻るか」 練習もはじまるし。白竜がそう言って立ち上がると、シュウが「待って」と力の無い声で言った。 「立てないんだ」 シュウが白竜の服の裾を掴む。 「知るか。俺は戻る」 「薄情者だな、白竜は。誰のおかげで安眠できたと思ってるの」 そこで白竜は息がつまった。膝枕なんて頼んでないが、もし木にもたれたままだったら今ごろ全身が悲鳴をあげていただろう。 「わかったわかった」 白竜はその場に屈むと、シュウを横抱きにして立ち上がった。 シュウは落ちないように白竜の首に手をまわした。 「ありがとう、優しいね」 シュウが微笑むと、白竜はそっぽを向いた。 「今回だけだ」 「うん、ありがとう」 シュウは白竜の腕の中で、膝枕にお姫様だっこだなんてまるで恋人みたいだ、などと考えていた。 |