愛と呼ぶにはまだ足りない アンリミテッドシャイニングのキャプテンとエンシャントダークのキャプテンは似た者同士である。 カイは二人のキャプテンを見比べながら、しみじみとそう思った。 今日の練習試合では、どちらも得点を入れることが出来ないまま引き分けに終わった。 どうにも消化不良なキャプテン達は、試合終了後目を合わせるなりそっぽを向く始末である。 (子供か、ってね) カイは自身のキャプテンであるシュウと、もう一人のキャプテンである白竜を交互に見て、ひょうひょうと笑った。 それに気がついたシュウが鋭い眼差しでカイを射る。何がおかしい、と言っているかの様に。 「や、だってさ」 二人とも、同じ顔してるから。 カイがそう言うと、シュウはぱちぱちとまばたきを繰り返したあと白竜に視線を移す。 そして再びカイへと向き直り、怪訝そうに「どこが」と言い放った。 「同じ顔だよ。眉間に皺寄せて、あー怖い」 シュウは普段、滅多なことでも無い限り怒りの表情は見せない。 だが、アンリミテッドシャイニングとの試合となるとその表情も固いものになる。 それだけ真剣なのだ。そのことをカイは分かってはいるが、こうもハッキリとしていると笑うしかなかった。 「引き分けは悔しいよな、次までに鍛え上げれば良いんだから」 シュウの肩にぽんと手を乗せると、まだ何か気になるのかシュウはカイと目を合わさない。 「試合のことも確かに悔しいけどさ、それよりも…」 「それよりも?」 カイが訊くが、シュウは答えない。 そのままカイの手を払い建物の中へと引っ込んでしまった。 やれやれ、難しいキャプテンだ。 カイがふう、と息をはくと、まだ残っていたアンリミテッドシャイニングのキャプテン…白竜に気がついた。 他のメンバーはぞろぞろと立ち去り始めたが、白竜はじっとどこかを見つめているように見えた。 (? なにかあるのか) 白竜の視線を追うと、ちょうどシュウが建物の中に入って行く背が見えた。 そのシルエットが完全に見えなくなると、白竜も他のメンバーと並んで歩き始めた。 これはどういうことか。よっぽど今日の試合が気に入らなくて、シュウに恨みでも持ったとか? カイはうんうんと頭を捻って考えるが、答えは出せそうになかった。 次の日は合同試合は行われず、エンシャントダークは個別で練習を開始することになった。 昨日に続き煮えきらない面持ちで現れたシュウに、カイは気さくに声をかけた。 「まだ昨日の試合引きずってる?」 「…いや、」 何か続きを言おうとした所で、シュウは口を閉じてしまう。 無言のまま練習場まで来ると、いつもの掴み所の無い顔へと戻っていた。 「カイ」 練習を終え皆が戻ろうとし始めたころ、シュウはカイを呼び止めた。 「なに?」 出来るだけ明るく返事をした。今のシュウには、なんとなくそうした方が良い気がしたからだ。 それからは、シュウに付き添うまま彼の自室までやって来てしまった。 「部屋にまで呼んで、よっぽど重要な話ってこと?」 カイは遠慮無しにベッドに腰かけると、シュウもその隣に座った。 「実は、ね」 「うん?」 シュウが俯きながら、しっかりと閉じられた両足の爪先を上下させる。 「白竜の…ことなんだけど」 白竜。やっぱり昨日の試合のことなのだろうか。 「一昨日のことなんだけど」 一昨日と言うと例の練習試合より前の話か。そんなに前から何があったというのだろう。 「ぼく、」 シュウは顔をあげ、まっすぐにカイを見据える。 微かに紅潮した頬に一瞬どきりとしたのは秘密だ。 「白竜に――」 その続きは、あまり覚えていない。正確に言うと、あまり思い出したくない、だ。 ベッドの上で膝を抱えてうずくまるシュウにかける言葉が見つからない。 (だって、だって、シュウが) 白竜に告白されていたなんて。 まだ混乱したままの頭でカイは昨日の記憶を掘り返した。 あの練習試合は、確かに試合自体も良いものではなかった。 だが、シュウにとってそれより問題だったのは白竜の方だったということだ。 白竜からの告白に随分困惑したシュウは、何も言わずにその場を飛び出し返事も何もしていないという。 そして迎えた白竜との練習試合。集中出来るはずもない。 それは向こうのキャプテンも同じだったのか、結果消化不良な残念試合となってしまったわけだ。 シュウのあの様子も、シュウを見つめる白竜の視線も、これで納得がいく。 カイがシュウ同様頭を悩ませていると、なんとも頼りない声で「どうすればいいかな」と聞こえてきた。 俺たちのキャプテンをここまでにしてしまう白竜を、カイは僅かに憎んだ。 「どうって、シュウはどうなわけ?」 「え…」 「白竜のこと」 白竜とシュウが結ばれて欲しいなんて思っちゃいないが、彼は真剣そのものだ。それを邪険に扱ってはいけない。シュウは大切なキャプテンなのだから。 「嫌なら嫌だとはっきり言えば良いんだ」 「でも、顔を合わせるのもなぁ」 シュウはため息をついた。 「だって、好きだなんて冗談だと思ったし」 「そりゃあね」 「だから笑ってやろうと思った。なのに、……」 そこからシュウの声は途切れてしまい、カイは不思議に思い彼を見ると耳まで真っ赤であった。 (もしかして) 考えるのも嫌だったが。 「やることやっちゃってたり?」 「は…!?」 物凄い勢いで顔をあげたシュウは、ぶんぶんと首を横にふった。 「違う、そうじゃなくて」 「なら何されたわけ」 何かをされたのは確かだろう。でなければシュウは白竜から逃げるような真似はしない。 「軽くだけど、キスされた」 ああ、そんなことシュウの口から聞きたくなかったなぁ。 カイは困ったように笑って見せて、シュウの肩を掴み無理矢理自分の方へと向かせた。 「白竜にキスされたのが嫌だったってこと?」 カイが訊くと、シュウは不安げにまばたきを繰り返した。 「分かんないよ、一瞬だったし」 「なら、その告白とキスが俺からだったら、シュウはこんなに悩んだ?」 え、と小さな声が耳に届いた。 シュウの闇色の瞳を通して自分が見えた。なぜ、こんなに意地悪な顔をしているのだろう。 「カイ?」 シュウは意味が分からない、といった様子で首をかしげる。 シュウは何も分かっていない、何も。 そんなに可愛らしい動きをするから、白竜は思わずキスをしてしまったに違いない。 今ならカイは白竜の気持ちが分かる気がした。 「カイ、よく分からないよ」 「分からないだろうね、だって」 シュウは、きっと白竜のことを好きだから。 好きだから、あんなに悩んで動揺して俺にまで相談をしたのだろう。 それに気がついて胸が痛むのは、大切なキャプテンが自分のチームより他のチームのキャプテンに夢中になって欲しくないからだ。カイは自分にそう言い聞かせた。 「行ってこいよ、白竜のところに」 今度は笑顔を作らなかった。これは、男の意地だ。 もしかしから悪あがきかもしれない。それでも構わない。 「こんなにあいつのことで悩むくらい、今のシュウは白竜で頭がいっぱいってことじゃないのか?」 シュウを落ち着かせるように出来るだけゆっくり言い終えると、シュウは今日はじめて笑顔になった。 やっぱりその笑顔が一番似合うよと言ってやれれば良かったのだけど。 それを言う役目は、もう別の男に取られてしまっている。 「あの、カイ」 シュウが薄い唇を開く。 「ありがとう」 ベッドから降りようとするシュウの背中を軽く押してやると、振り返ったシュウは眉を八の字に曲げた。 部屋に一人残されたカイは、ここがシュウの部屋であることも忘れベッドにごろりと横になった。 「あーあ、バカップルめ」 天井に向かって吐いた声は、しっかりと自分の耳に返ってきた。 |