とける ゴッドエデンの練習用に作られたテラスに、白竜はいた。 外の景色が一望出来るその場所は、白竜の特等席と言っても良い程に彼の訪れる頻度は高い。 夜風が肌に刺さる。だが不思議と寒くはない。 ゴッドエデンとは、そういった場所だった。 キーパーのいないゴールにシュートを打ちながら、白竜はシュウのことを考えていた。 (あいつは何者だ、何故あんなプレイが出来る?) 最後のボールに片足を乗せ汗を拭う。それでも頭の中は晴れない。 雲に隠れていた月から明かりが差し、明かりの下には一つの黒い影が佇んでいた。 「…シュウ」 「やぁ、熱心なところに悪いね」 白竜の視線に応えるように、シュウがにこりと笑って見せる。 「何をしに来た」 「なんにも。ただ、白竜が見えたから」 「意味が分からないな」 白竜は足下のボールを蹴る。見事ゴールに入ったボールを見ながら、シュウは「だってさぁ」と力の入らない声で言った。 「君の僕を見る目が、面白かったんだ」 「俺の目、だと?」 「なんだこいつ、って目だったよ。だから、気になっちゃって」 シュウが夜空を見上げながら言った。 剣城がゴッドエデンを去ってからは、白竜にはライバルと呼べる人間がいなくなった。 そんな時にシュウが現れた。剣城とはプレイスタイルは違うものの、白竜と同じラインに立つには相応しい存在だった。 そんな存在を見つけた驚きからか、白竜はシュウを初めて見たとき何かを感じ、それによって彼ばかりを見ていたかもしれない。 「お前が現れたことは、確かに俺にとって大きい」 シュウが夜空から白竜へと視線を移す。 「俺はいずれ究極になる。その為には、同じ究極を目指す存在が必要になる」 「それが僕だって?」 「ああ」 白竜は表情を変えないまま言った。 「そう、究極、ね…」 シュウは目を細める。その表情から感情は読み取れない。 月が雲に覆われ辺りが暗くなり、視界が悪くなった。 そんな中、白竜はシュウを見た。外見から黒色の印象を受けるシュウは、そのまま闇に融けてしまいそうだ、と。 白竜はシュウの側まで来ると、その存在を確かめるように腕を握った。 「…白竜?」 呼ばれてから白竜は自分が何をしたのか気がついた。 すぐさま腕を離したが、融けてしまいそうだったから、なんて口が割けても言えない。 「僕はここにいるよ」 「シュウ?」 まるで心を見透かされたかのような発言に白竜は焦る。 「少なくとも、強さの意味が分かるまでは」 消えてしまいそうなその声に、白竜は目の前の少年があまりにも脆く見えた。 「意味なんて、考えなくていい」 白竜がやっとの思いで絞り出した声は、しっかりとシュウへと届いていた。 「ただ強くなる。俺たちはその為にここにいる」 お前だってそうだろう。白竜がそう言うと、シュウは小さく「そうだね」と返した。 「意味なんて考えてたら、強くなれない。強いことに意味がある、か」 シュウが白竜に背を向けながら言った。 白竜には、その細い背には抱えきれない程の闇が見えた。 「お前にも、強さを求める理由があるんだろうな」 白竜が言うとシュウが振り返り、肩越しに闇色の瞳が見えた。 「僕は、君に会えて良かった」 その瞳に入った一点の光から、彼は喜びを得ているのだと分かる。 「こんなに気の合う人間、始めてだよ」 それだけ言うと、白竜が呼び止める間もなくシュウは建物の中へと戻ってしまった。 一人残された白竜は、シュウの背中を見送ったままぼんやりと考えていた。 (気の合う、か) 確かにそうかもしれない。 俺たち二人なら、究極に近づく日はそう遠くない。 シュウの存在とは、白竜にそう確信させるまでに大きなものとなっていた。 |