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雨上がりの午後のことです。
公園でお昼寝をしていると、まぶたが急にくらくなりました。

「えりかさん、今日もきれいだね」

そっと目をあけると、さんかくの瞳がこちらを覗きこんでいました。斑鳩くんは、ここちよい笑みを浮かべています。
きっと走ってきたのでしょう。わたしの頭をなでながら隣に座り、胸元をぱたぱたとあおいでいます。

「すごい。ここだけ雨がかわいてる」

このおおきな石でできたベンチはわたしの特等席です。陽射しがあたたかく、石はひんやりとつめたいので、今日のような晴れた日はいつもここにいます。
わたしと斑鳩くんはおたがい暇なときにここへ来て、おしゃべりに興じたり、おやつを食べたり、お昼寝したり、散歩したりします。

「えりかさん、どうしよう。オレ、主演だって」

斑鳩くんはわたしの首に鼻をうずめてぽつりと言いました。
劇団にはいっているという事は聞いています。ですが、斑鳩くんが絞り出すようにこぼした主演というものがどれだけすごいことなのかは分かりませんでした。

「すごくたのしみなのに、すごく不安なんだ」

一瞬、ぎゅっと抱きしめられます。なにも知らないわたしは、斑鳩くんにかける言葉を持っていません。
ただ、横を明けわたすのは斑鳩くんだけ。きっと彼は気づいていないのでしょうけど。
斑鳩くんはすぐにわたしを解放して、また笑いました。

「ごめんね。こんなこと、みんなには言えないから。でもえりかさんが話を聞いてくれるから、オレはいつものオレで帰れる」

斑鳩くんはそう言うと、わたしのとなりで横になりました。しばらくすると、寝息が聞こえてきます。
わたしに斑鳩くんをなぐさめられる喉があったのなら、どんなに幸せだったことでしょう。若しくは、抱きしめ返せる長い腕があったのなら。
寄り添える心。共に歩ける脚がほしい。
わたしはその時、唐突に、終わりを感じました。
斑鳩くんのきらきら光る前髪を見て、もうこれが最後でもいいな、と思いました。
わたしにとって、これが至上の人生なのです。



:今なら死んでもいいよ



長くしなやかなしっぽをひるがえして、わたしは静かにベンチから降りました。
そっと後ろを振り返ると、斑鳩くんは木枯らしに吹かれてちいさく丸まっています。
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