yume | ナノ




 気がつくと、わたしは洋風のお屋敷にいた。窓には分厚いカーテンが掛かっていて、窓が開いているのか時々涼しい風が吹き込む。チラチラと覗く月の光が部屋を照らすけれど、そんなものなくても、不思議と部屋の様子がよく分かった。鬼は、夜目が利くから。
 天蓋付きの大きな柔らかいベッドで目覚めた。立派な部屋だけど、殺風景だ。本棚や机には、埃除けの紗がかかっている。
 ここはどこかしら。すこし顔を動かすと、隣にこの世のものとは思えないほど美しい女がいたから心底驚いた。
 わたしの身動ぎで目を覚ました女は、巨大な瞳をぱっちりと開けて、ふうわりと花が綻ぶように笑った。

「おはよう。待ちくたびれたわ。アンタが起きるのをね、ずっと待ってたの」

 鈴の転がるような声が脳に延々と響く。
 三日三晩眠り続けたみたいに頭が重い。喉が渇いてたまらないし、視界もぼやけている。
 固まって動かない身体に、女の長い手足がそっと絡みついてきた。
 女は裸で、桃のような乳房も恥じらいの丘も、すべてを曝け出している。長襦袢を着ているわたしの方が恥ずかしく思うほど、女の身体はパーフェクトななりをしていた。

「どうか、ああ、放して」
「イヤよ。絶対にはなさない」

 首筋を撫でられる。いつの間にかに滲んでいた汗で張り付いた髪を、丁寧に整えてくれる。あたたかくて、すべらかな指が気持ちいい。

「あなたは……?」
「無惨様がね、鬼殺隊を滅ぼした褒美をくれてやるっておっしゃったから、アタシ、アンタをねだったのよ。一目惚れってホントにあるのね。上野のカフェーでメロンサイダーを飲んでいた時よ。外を歩いているアンタに一目惚れしたの。若草色のワンピースを着ていたのを覚えてる。真珠のイヤリングをしていたわ。すぐ後ろ姿しか見えなくなってしまったけど、きっとネックレスも真珠だったのでしょうね。それから寝ても覚めてもアンタのことばかり考えるようになった。このアタシがよ!だから無惨様にお願いして、アンタをここへ連れてきてもらったの。お人形を欲しがる子供みたいに思わないでちょうだい。アンタが美しいのが悪いのよ。アタシ、こんなになったの初めてなんだから。かわいい人。信じてくれるわよね」

 若草色のワンピース?そんなものあったかしら、と思って、箪笥の奥に仕舞っていたものを思い出す。あれをよく着ていたのは三年も前で、最近は全然袖を通してなかったのに。この人は三年、短くとも二年はわたしのことを思い続けていたの?ずっと?(鬼は不老で、時間の流れが人間とは違う。彼女にとっての三年は、あくびをしていればあっという間に過ぎ去る時間だということを、わたしはまだ知らない)。
 女はわたしの顔の至るところに唇を落とし、子猫にするみたいに頬ずりをしている。
 拙い口説き文句だったけれど、わたしはあっけなくオチてしまった。わたしを見詰める目はアツくとろけていて、しっとりとうるんだ唇は絶え間なく愛をささやく。嘘偽りない愛を。

「あ、あの」
「なあに」
「分からないことだらけで、その……」

 わたしが一言を紡ぐたびに、うれしいという様子を隠さない。フワフワの枕に頬をうずめて、寝る一歩手前みたいな、美酒に酔ったみたいな、うっとりとした声でささやいた。

「いいわ。時間はたっぷりあるのよ。なんでも聞いて」
「あなたの名前は?」


:現実に於て3
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