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ぼく、ちゃんとした女の子になりたいな…。
夕陽にきらきらときらめく金色の髪を風に踊らせているひばりは、ふぅとため息をつきながらそう言った。
伏せたまつげのあまりの長さに、わたしは思わず目を奪われる。根本から上向きにカールしたまつげ。マッチが何本か乗りそうなくらいしなやかで、絶対的な強さを持っている。
ひばりが哀しいとわたしも哀しい。ひばりの美しい瞳では、涙が重力に負けそうになっている。

「ひばりは女の子だよ」
「違うもん。ぼくは胸もないし、耕作とエッチなことできないもん」
「魂におとことかおんなとか、関係ないと思うな」
「……えりかちゃんはやさしいね」

おしゃれなカフェのおしゃれな窓枠から西陽が差している。ひばりの横顔が逆光になっていてすごくまぶしい。
とうとう美しい瞳から涙がひとしづく垂れ落ちた。清らかで神秘的で宝石みたいなひばりの体液。やわらかいほおに唇をよせてその涙をすすることができたならば。
きっとひばりが美しすぎるから、神様がひばりから女の子の身体を奪ったのだろう。神様がひばりに恋に落ちないように。ひばりが穢らわしい人間に非道いことをされないように。
わたしはすっかり冷めてしまった紅茶のカップをゆらゆらと傾けた。
ごめんなさい。ひばりを女の子として好きになって、ごめんなさい。

「えりかちゃん、どっか行こっか」
「どこへ?」

ひばりは窓に預けていた身体を起こしてわたしをじっと見つめた。眉毛の位置でそろえられた前髪の毛先が目もとに影を落としている。
わたしはひばりの視線にどぎまぎする。それは、わたしを殺すただひとつの武器。

「知らないところ」

わたしはいいね、と笑ってみせた。なんでもないように。
ずっとこわばった顔をしていたひばりはやっと力を抜いたようだ。もう涙の跡は見えない。

「ぼく、あったかいところがいいな」
「わたしも」

外を見ると、いつのまにか人の往来が増していた。バカみたいな若者らが大口をあけて笑っている。下品な男が制服姿の女の子に声をかけている。くたびれた太ったサラリーマンがどっぷりとした身体を揺すっている。
穢らわしい。こんなやつらと同じ生物とされているひばりが可哀想。

「海もさ、よくない?」
「山も捨てがたいね」

ひばりがもしこの与太話を本気にしているとして、わたしは現実、どうすることもできない。お金は?学校は?寝泊まりするところは?
わたしたちはまだ無力な高校生だった。

「そろそろ帰ろっか」
「そうだね」
「今度さ、ひばりん家泊まりにいってもい?」
「いいけど、家ヤクザだよ」
「気にしないよー」

わたしたちは繁華街を歩きながら笑いあう。
男も女も、爺婆も子供も、みんな美しいひばりを目で追っている。
わたしはしなやかにのびるひばりの綺麗な手を掴んで、指を絡ませた。

「ぼくの一番の女友達がえりかちゃんでよかった」

神様ごめんなさい。ひばりもごめんなさい。
ひばりはわたしが守るから、まだ側にいさせてください。


:窓はひらかない
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