性交のあとの気だるいまどろみは、とても好きなもののうちのひとつです。 世界にはわたしと横で息を荒くして目をつむっているこの人しかいなくて、幸福しかない瑞々しい悦びがわたしと万里くんを包み込んでいます。
わたしと万里くんは、ふたりで布団の上で仰向けに寝ころがって、その瑞々しい悦びを共有していました。勿論どちらも裸です。 少し焼けた万里くんの肌の上を――きめの細かい皮膚がおおっているふっくらとした筋肉の溝を――透明な汗がころころとこぼれ落ちるのを想像するのは、決して難しいことではありません。 わたしが薄く笑うと、万里くんはうつぶせになってわたしをそのたくましい腕でおおいました。
「なに、にやにやしてんだよ」 「にやにやしてるのは万里くんでしょう」
万里くんの指先がわたしの無防備な体の上で踊るたび、下腹の奥がくすぐったくなります。
「すけべ」
万里くんは起き上がってわたしにおおいかぶさりました。わたしの足に跨がっておへその下に唇が触れるので、わたしのいやらしい体は否応なく反応してしまいます。
夏は、本能と生命の季節です。言葉は要りません。 わたしも万里くんも、発情しきっていました。
開け放した戸から、夏の水分をたっぷりとふくんだ風と、攻撃的な太陽の熱と、蝉のけたたましい叫声が通り抜けています。 濃密な情事は、また訪れました。わたしも万里くんも、それを拒めないのは当たり前のことです。 そうしないと不自然だとでもいうように、万里くんはわたしの中に入ってきました。ゆるやかに、強かに。
万里くんの長い前髪が、わたしの汗ばんだ肌を掃いてゆきました。万里くんの輪郭を伝った大粒の汗は、大きな振動によってわたしのふくらんだ乳房に雨を降らせます。 アア、なんて素晴らしい! わたしは熱い湿った息と共に感嘆を漏らしました。それと同時に、万里くんの本能が波打ち、わたしの中で大きく膨らみました。 絶頂の瞬間、万里くんはわたしの名を譫言のように呟き、それによってわたしの子宮もなにか――なにか、というのは悦び以外の何ものでもないのですが、その時のわたしにはわかりようもないことです――を飲み込みました。 性交のあとの気だるいまどろみが好きです。この世で一対の、浅ましい肉体がここにあります。
万里くんは、床にたゆたうわたしの髪をひと房手に取り、唇を寄せました。
「えりかさん、また会いに来るから」
強く強く抱き締められました。それは完全なる拘束です。わたしは言葉を発することも、頷くこともできません。 わたしは、万里くんが次の夏まで会いに来ることがないことを知っていました。
あと三日ほどで、夫が帰ってきます。 今になって、寂しさで気が狂いそうになりました。万里くんに対してではなく、夫に対しての寂しさです。 そっとまばたきをすると、潤んだ瞳から冷たい涙が垂れ落ちました。
今は夏です。 蝉の声も、近くの沢で遊ぶ子供たちの声も、深緑をたっぷりと茂らせた木々も、裸で睦みあうわたしと万里くんも、ただただ本能に従って活動しています。
:成れの果て |
|