恋しい

「ねぇ、ねぇ待って」


りゅーくん怒っちゃった?

夫婦って言われたから?


ねーえ、ねぇ待ってよ。

私、そんなに、そんなに足速くないんだからさあ…。


目頭が熱い。

首元の後ろも。

喉が苦しくて痛い。

胸も、締め付けられる。



うぅ、ばか。

りゅーくんのばか、痛いよばか畜生イケメンめ。

大好きだコノヤロー。


気づけば足は止まっていて、気づけば涙がボロボロ落ちていて、とっくにりゅーくんなんて視界に入っていなくって。

見えるのは歪んだ地面に写る自分の影と、ボタボタと落ちていく滴。




…………と、シューズ。


ゆっくりと顔をあげると、目を泳がせながらポケットに手を突っ込んでる私の彼氏が目の前にいた。


「…………っ、」


しゃっくりが出たと一緒に、涙がもっと流れ出る。



「なに泣いてんだよ」

「………うう、」


声に出そうとしても、言葉が出ない。

重いな私。


はぁーっ、私重たい。


「………はぁ」


ほら、溜め息なんかついちゃって。


なんて思っていたら、背中を押された。

何が起きたのかわからなかったけど、気づけば顔のすぐ横にりゅーくんの顔があって、りゅーくんの髪があたって冷たい。


それを少しだけ気持ちいいなって感じて。

背中を押したのも、私の身体に手を回しているのも、りゅーくんだってわかって、やばいくらいに今は心臓の音がドクドク言ってる。


けど、私が手を回そうとした瞬間に、りゅーくんは私の肩を掴んで、密着していた身体を離す。


………いじわるめ。


なーんて考えもしたけれど、目の前には私から目をそらして顔を真っ赤にさせてるりゅーくんがいたから、すっごくかわいい、なんて思った。


「…………あ、のさ」

「…うん」



またまたりゅーくんは目を泳がせる。

私はじっとりゅーくんの目を見てると、ポケットから何かを取り出した。


包装された四角い…箱、かな?



それを私の前に差し出す。

「…………あげる」

「……え、なんで?」


「……………、ほ」

………ほ?


「ホワイトデー、よろしく」



さっきよりももっと顔を赤くして、すっごく顔をしかめて。

小さな声で「手作りで」なんて呟いた。


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