チャリの後ろに乗っているのは

ハァッハァッと息を荒くして必死にチャリを漕ぐ。

「ねえっ」

「なに!」

「なんか、電話、…ケータイとか持ってる?!」

チャリで頑張ってるのに何だよ!なんて内心思いつつ、ポケットに入っているケータイを取り出して後ろに手を伸ばした。

「ほら!」

「ありがと!」

「………ねぇ、」

「なに?」


弱々しい呼びかけが返ってきたかと思えば、

「…使い方、わかんない」

だった。

俺はチャリにブレーキを掛けて止まると、「貸して」と彼女の手からケータイを抜き取る。

「だめ!止まっちゃダメ」

「…なんで、」

「いーから漕いで!!」

「わかったよ!!」

なんなんだよ、くそっ。

俺はチャリを漕ぎ出し、片手でケータイを操作する。

「で、どこに電話いれんの?」

「警察」


「…はっ?」

「お願い、早く」

俺は意味がわからなかったが、声の調子が余りにも真剣で、俺の服の裾が先ほどよりも強く引っ張られて、俺を掴んでいる彼女の手が強くなったのを感じた。

「ほら!」

俺はもう一度、彼女にケータイを渡すと、「ありがとう」と、今度は落ち着いた返事をした。


「……もしもし」

彼女の声が、少し震えているような気がしたのは、気のせいじゃないと思う。

「私は芦屋ナツです……二年前に、誘拐されました。聴き覚えないですか?」


なにを言い出すかと思えば、こいつ馬鹿じゃないのか?

相手は警察だぞ?
俺はほんとに警察に掛けたぞ?

「…お前、んな冗だ「冗談じゃない」

言い終わる前に、彼女はひどく落ち着いた声でいった。

そして、確かめさせるように、「冗談じゃない、」ともう一度言った。



ちょうどその時、俺たちは宙に浮いた。

「え、」

チャリが俺たちより遠くに横滑りし、ドサっと俺たちは転げ落ちた。

体に痛みが走り出し、ジンジンしてきた。

投げ飛ばされた逆の方を見てみると、一台の車があって、その中の運転席から覗いている人は、酷く、歪んだ顔をしていた。

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