孤影孤愁 R18

「ただいま……」

暗い部屋の中に自分の声だけが響く。
シーンと静まり返った部屋は、誰もいないことを告げている。
ダムは深い溜息をつく。
もう日付が変わる夜も深い時間だ。
今日も事後処理とか、モンスターの被害状況の検分だとかで一日中あちこちに走り回っていたら、こんな時間になってしまっていた。

取り敢えずリビングの明かりを点けて、着替えるために自室に向かう。

ダムの自室は廊下の一番奥にあり、そのためには必然的に帽子屋の部屋の前を通らなければならない。
でもダムは自室につく前に、ふと足を止めた。いないことは判っているが、本当にいないか確かめたかった。

方向転換をして帽子屋の部屋の前に立つと、律儀にノックをしてみる。
もちろん返事はない。
少し迷いながらもノブに手をかけると鍵は掛かっておらず、すんなりドアが開いて躊躇しながらも部屋の中に入った。

自分の足音が虚しくカツンと響く。
主がいない薄暗い部屋には窓から月明かりが差し込み、寒々としていた。

ここのところ、互いに忙しく擦れ違いの日々を送っていた。
一緒に住んでいるとはいえ、ここまで見事に顔を合わさないと笑えてくる。
もしかして、避けられているのかと後ろ向きな考えも浮かんでは消えるほど、顔を見ていないのだ。

ダムは自嘲する。
自分はいつの間にこんなに弱くなったんだろうか?

軍から離反し、反乱軍に身を置いていた時は基本的には一人で行動していたことが多かった。
だから一人きりには慣れていたし、やることも多かったので寂しいと思うことなどなかった。

それなのに、たかが彼の顔が見れないくらいで、こんなに弱気になるなんて。

ダムは物思いに耽り、椅子の背に掛けてあるシャツを手でなぞってみる。
帽子屋が部屋着として使っているものだ。
小さめのテーブルの上には彼にしては珍しく、飲みっぱなしのティーカップと読みかけの本が置いてある。どれも彼らしい趣味のいい品だ。

そこかしこに彼のいた痕跡が残っていてダムに安堵を与えた。



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