帽子屋への撤回

※ネタバレ要素あり




帽子屋の奴が付き合いやすいと
前言ったけど、撤回するよ。
あんな野蛮人だとは思わなかったよ…
信じられない、最悪だ――――。



――――数時間前。

暖炉の炎が暖かく、時折静かにパチパチと音をたてて爆ぜる、静かな冬の午後――。

やまねは居間のソファーでいつものように微睡んでいた。
だが、ふと微かに意識が浮上して目を覚ます。けだるげに身体を起こしながら、頭を巡らす。

確か先ほどまで、アリスやらチェシャ猫が煩いほど騒いでいたはず……。
でも今はシーンと静まり返った部屋には、暖炉の前に陣取って一人掛けのソファーで読書をする帽子屋しかいなかった。

「あれ?真琴は」

「うさぎちゃんたちと買い出しに行っている」

「ふーん……」

本から視線を外さずに答える帽子屋に、真琴がいないとわかると、やまねは早々に興味を失う。

またひと眠りしようとソファーに埋れた。

横になってぼんやりしながらも何気に帽子屋の方に視線を向ける。
暖炉の炎に照らさられる帽子屋の綺麗な横顔を見ながら、覚醒しきれてない頭で思う。

白うさぎやチェシャ猫のようにあれこれ構うことがなく、あまり内面に踏み込んでこない帽子屋。親しい人間以外には適度な距離を置いていて、どこか自分に似ていると思った。

あとはその美しい容姿に惹かれ、言い寄ってくる奴らが多いって所も似ている。

でも、彼はそれらを簡単にあしらい、時には自分の手駒にしたり、利用価値が無くなったら切り捨てる冷徹な一面がある。

自分だったら、最初からそんな面倒臭いことはしない。
必要なモノと必要じゃないモノ。
この二つ以外ないのだから、
必要じゃないモノはイラナイ。
シンプルで分かりやすい方がいい。

自分と帽子屋が違う所はそんな所だと思っていた。

そんなことをとめどなく思っていたら、眠りにつく前に喉が渇いてきた。
やまねはまたむくりと身体を起こし、今度はお茶を煎れるために動き出す。




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