その男、強い独占欲につき

この宿の地下にはバーがある。

普通、宿に併設された飲食する場所は、一階などに食堂を兼ねている居酒屋みたいなものが多い。

この宿も一階はそうなっているが、それとは別に宿の主人が趣味で、静かに酒を飲める場所をと、地下に造ったのがこのバーだった。

確かに上の喧騒が嘘のように、そこだけが切り取られた静かな空間。
オイルランプの炎が揺らめき、必要最低限に落とされた明かりに洒落たアンティークの装飾が微かに煌めいている。

客は疎らで、ジャズが静かに流れ、
とても落ち着いた大人の雰囲気を漂わせている場所なのだった。



ある眠れぬ夜、帽子屋はその隠れ家的なバーのカウンターに座り、一人グラスを傾けていた。

グラスを揺らし、琥珀色の酒の中で氷が触れ合い、溶け合う音を楽しむ。
たまに、こうして一人で静かにゆっくりと、酒を飲むのが帽子屋の秘そかな楽しみなのだ。

そこへ階段を降りてくる足音が響いた。
一番最初に見えたのが、見慣れた軍靴ですぐに誰だかがわかった。

「おっ!帽子屋。お前もいたのか」

白うさぎだった。

目敏く、帽子屋を見つけた白うさぎは、しなやかな長い手足を持て余し気味に、伸びをしながら帽子屋に近づき、

「なんか寝付けなくてな」

と聞いてもいないことを口にして、さも当然のように、帽子屋の隣に座った。

これが他の奴だったら、一人で飲んでいるところを邪魔されたくはない。
丁重にお引き取り願うか、自分が席を立っていただろう。

白うさぎは帽子屋の手元をちらっと見て、同じものをと、カウンターの中のバーテンダーにオーダーする。

「なんだ、年寄りは早寝早起きじゃないのか?」

「だっー!だから年寄り扱いするなっつうの!お前と三つしか違わねぇだろーがっ!」

白うさぎを揶揄うのは帽子屋の趣味。
今みたいに、打てば響くような反応を返してくるからやめられない。
白うさぎにとっては甚だ迷惑な話なのだが。

そんなやり取りをしていると、オーダーされたスコッチが白うさぎの前にスッと差し出された。

出されたグラスを白うさぎが長い指先でグラスの淵を掴み、軽く持ち上げて帽子屋の方へ向ける。

帽子屋は自然な流れで自分のグラスをそれにカチンッと響き合わせ、二人一緒にクイッと、煽って軽く一息つくのだった。



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