嵐が何かを連れてやってきた
季節外れの嵐―――――。
ガタガタと大きな音を立てて、夜の闇を映している窓を揺らす。時折、雨が激しく打ち付ける音もする。
嵐が来ると妙にワクワクしてしまう。
帽子屋に言わせるとお子様の証拠だな、という。
だってしょうがないじゃないか、遠い場所から大風に乗って、嵐が何かを連れてやってくるような気がするのだ。心がドキドキして落ち着かないのだ。
尻尾をゆらゆらと揺らし、ベッドの上で寝転びながらそんな風に思って窓の外を見ていたら、一瞬、外が明るく光った。
そして間髪入れずに窓を揺らすほどの轟音が響く。
近くに落ちたな、と毛布を被ったまま、窓に近寄ったらまた雷がドシャーンと、空気までも震わすような音を立てて落ちた。
その時、チェシャ猫の耳がぴくぴくと反応した。
雷の音に紛れて微かな悲鳴が聞こえたのだ。
どこから聞こえたのか辺りを窺う。
もう一度、雷鳴がして、きゃあぁという小さな悲鳴が重なる。
隣の部屋からだ。確か隣はアリスだ。
チェシャ猫は自分の部屋を静かに抜け出しアリスの部屋へ向かう。
周りは寝静まっているので小さくノックをしてみたが、嵐の音に掻き消されて聞こえないのか、返事はない。
心配してそっとドアを開け、部屋の様子を窺うと、ベッドの上にこんもりとした毛布の山が薄暗いなかに見えた。
「……アリス、大丈夫ぅ?」
「………っつ!……チェシャ猫ぉ?」
涙声で半泣き状態のアリスが毛布からひょっこりと顔だけを出す。
チェシャ猫が近付いてベッドの端に座ると、アリスは堪らず、わーんと抱きついてしまう。
よしよしとチェシャ猫は元は真琴だった手触りのいい髪を撫でてあやした。
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