「よーし♪やったー!これで終わ……」
「うわぁぁっーーっ!!」
「!?…やまねっ!」
モンスターを倒したと思ったら、突然、やまねの悲鳴が洞窟内にこだました。
何事かとチェシャ猫が傍に駆け寄ると、やまねは地に膝を付き、両目を手で押さえていた。
「どうしたのっ?!やまね!」
「うっ…モ、モンスターの体液が…目に……っ」
「えっえぇっー!ど、どうしよう?!」
チェシャ猫は慌てふためく。
焼けるような痛みがやまねを襲う。
目が開けられない。
痛い。
熱い。
そして………怖い。
闇の中に放り出されて、
何故か音も匂いも遠退き、
感じるのは痛みしかない。
目は熱く痛いのに、
足元から、
手先から、
冷たくなっていく感覚に囚われる。
少し前まで、この国も自分さえも、
消えて無くなってしまえと
思っていたのに、
目が見えなくなったくらいで、
こんなにも恐怖を感じて、
うろたえるなんて………。
「やまね、大丈夫だよ!しっかりして!あっ、そうだ!待ってて!」
闇の中に震えていたやまねを、不意にチェシャ猫の暖かい声が現実に引き戻した。
次にカチャカチャと何かを外す音が聞こえた。
「やまね、顔を上げて!水で洗い流すから!」
やまねは云われるままに顔上げた。
チェシャ猫が腰に下げていた水筒の水で、やまねの両目にかけて洗い流す。
「やまね………大丈夫?」
水を全て使い切ると、チェシャ猫は心配そうにやまねに聞いた。
洗い流したおかげで、あの焼け付くような痛みは大分、引いた。それからやまねは恐る恐る目を開けた。
「み、見える……?」
霞みがかかったように朧げとしているが、沈痛な面持ちのチェシャ猫が映った。今にも泣き出してしまいそうな表情だったので、やまねは少なからず驚く。
何で、そんな顔してんだよ。
チェシャ猫はまるで、自分が怪我をしてその痛みに堪えているみたいで、やまねは困惑する。
所詮、他人事だろ。
そんなのは偽善だ。
人の痛みなんて、
そう簡単に解るはずないじゃないか。
それにいつもケンカばかりしていて、
自分のことなんて嫌いなはずなのに。そんな相手のことでも心配できるチェシャ猫に、やまねは戸惑っていたけど、一切顔には出さずに、つい悪態をついてしまう。
「………間抜けな顔をしたバカ猫が、うっすらとだけど、見える」
「っな!なんだよ、その言い方!こっちがせっかく心配してんのに!」
「ふんっ!恩着せがましいな。心配してくれなんて頼んだ覚えないよ」
憎まれ口を叩くやまねに、チェシャ猫はむうっと頬を膨らませた。
だけど、ずっとこのままではいられない。
「ほらっ、やまね」
やまねのぼやける視界に、手を差し出すチェシャ猫が映る。
「……何だよ、この手は」
「掴まれって、云ってんの!」
「はあ?何で僕が君の手に掴まらないといけないんだい?猫臭いのが移るだろ!」
やまねはつーんと、そっぽを向いて全然取り合わない。
「そんな目で、こんな暗い中を歩くのは無理だろっ!だから、俺が手を引いてやるって、云ってんの!!」
確かにチェシャ猫の云っていることは正しい。正しいけど、猫に気遣われるのは腹が立つ。
まだそっぽを向いたままのやまねの子供っぽい我が儘に呆れつつ、チェシャ猫は別の提案をしてみた。
「……じゃ、おんぶした方がいい?」
「……君ってホントにバカ?」
やまねは冷ややかな眼差しを向けて、チェシャ猫の提案を却下するのだった。
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