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慌てて帽子屋から白うさぎは離れようとするが、思いのほか帽子屋の力は強かった。
腕力では自分の方が上なのに、今に限って何故か振りほどけなかった。
酔っ払いの馬鹿力とでも云うのだろうか?
そんなことを考えていたら、帽子屋の悪戯が益々、エスカレートしていた。
白い柔らかい毛に覆われた耳に、ちゅっと帽子屋の唇が触れると、その温かな感触にぴくりと長い耳が震えた。
それから毛細血管が透けて見える、敏感な内側を舌で撫でるように舐められた。
白うさぎの息遣いが荒くなる。
「くっ、………はぁあ…うわぁっ!」
そして帽子屋が耳を甘噛みしたら、白うさぎの身体が大きく跳ねた。
白うさぎは間髪入れずに、その動きを利用して帽子屋の戒めを解くと、逆に帽子屋の両手をベッドへ押さえ付けてしまう。
ピンク色の長い髪がさらりと肩から滑り落ちる。
ハアハアと荒く呼吸を乱し、白うさぎの紅い瞳は情欲の灯をともしている。
身体に残る酒と帽子屋に当てられた毒気に、白うさぎの思考は暴走する寸前だった。
同じ男なのに帽子屋の綺麗な顔に見惚れる。先程まで陽気だった彼の、見上げてくる蒼い瞳は、今は寂しさと苦しさで不安定に揺れていた。
「うさぎちゃん………」
切なげに名を呼ばれれば、もう後の祭りだった。
理性の箍が外れた白うさぎは、帽子屋の首筋に噛み付くように口づけた。
口づけを下に降ろして行けば、刻まれた蒼い薔薇に辿り着く。
帽子屋がこの薔薇のタトゥーを入れたのはいつだったか?
出会った時はなかったはず。
ああ、そうだ。
出会ってから暫くしてからだ。
気付いた時には、
もうすでに入っていたのだ。
タトゥー自体、別に悪いとは思わないが、その蒼い薔薇のタトゥーはその時の帽子屋の危うさを、象徴するみたいで何故か不安を感じたのだ。
たまに暗い瞳をする帽子屋。
その暗い瞳と先程の瞳が重なった――。
白うさぎはそこで思い至る。
そうか。もうそんな季節か………。
今日の帽子屋の泥酔の理由。
それは彼の誕生日が近いから。
機嫌が良かったわけではなかった。
嫌なことを思い出したくなくて、
忘れたくて、飲んでいただけ……。
全くの逆の感情で、酒に酔い、
それを隠すために似合わないキャラを
演じていたのだ。
数年前のあの日、
帽子屋は父親に捨てられた。
それは丁度、帽子屋の誕生日だった。
めでたく、嬉しい誕生日のはずが、あの時から帽子屋にとっては自身を苦しめるものに変わった。
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