「ハートの王はともかく、向こうにはあの兄さんがいるんだ。一筋縄では、いくわけがない」

帽子屋の言葉を遮り、苦笑するようにダムは云う。
それにと続けて、

「俺も同罪だ。弟なのに兄さんを止められなかった…………でもいつかは、判ってくれると信じている」

悲しみに一瞬、アメジストが曇る。

信頼していた実の兄に傷付けられて、身体だけでなく心にも傷を負ったはずだ。それなのにまだダムはディーを信じようとする。

そんなダムに帽子屋は苛立ちを覚え、いきなり両手でダムの顔を包むように捕まえると、眼帯の上からキスをした。

「………帽子屋…?」

帽子屋の突然の行動に困惑して、ダムは訝しげに名を呼んでみる。

帽子屋はダムを無視して、まだ湿っているダムの銀の髪を掻き上げ、眼帯をぐいっと上にずらすと、左目の痛々しい傷があらわになる。

躊躇することなく、傷にも直接キスを落とす。だけど、唇を触れさせるだけじゃなく、舌で傷を舐めてくる。それはどんどん激しくなり、左目だけに留まらずにダムの顔中にキスを降らした。

さすがに自分の唇に帽子屋のそれが重なるとダムは抵抗しようと相手の身体を押し戻そうとした。その瞬間、

「んっ……!」

ガリッ!!

「………っい、つぅっ!」

帽子屋の舌がダムの咥内に侵入してきて、びっくりして思わずダムはそれを噛んでしまった。

「す、すまない!いきなりだったから驚いて、つい……」

キスを仕掛けたのはこちらの方なのに、律儀に噛んだことを謝ってくる彼に帽子屋は可笑しくなる。

「………っくく、アハハハ」

そうだった…。この男はひどく、ニブいのだ。事こういうことに関しては……。

そして帽子屋はさっきまでの胸のざわつきの正体を確信し、微かに血が滲んだ口元を拭った。

「……わかった。もう、手加減しない」

「…………?」

ダムが帽子屋の言葉の意味を図りかねて眉間にシワを寄せ、困ったように見つめてくる。

「今度、またディーがお前を傷付けることがあるなら俺はあいつを殺してでもお前を守ってやる」

突然の帽子屋の言葉にダムは目を瞠る。

「だからダム、覚悟しとけよ。俺は本気だからな」

凄みのある妖艶な微笑を浮かべながら帽子屋は宣誓するように、もう一度ダムの美しかった左目に口付けるのだった――――。



end.


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