居間のミニキッチンでお茶の用意をする。そういえばと、真琴から貰ったお菓子がまだあったことを思い出し、お茶菓子にしようと、やまねはいそいそと自室へお菓子を取りに行った。

戻ってくるとちょうどお湯が沸いていて、やまねはお菓子をテーブルに置き、振り向き様にケトルを取ろうとした。
が、運悪く手がケトルの取っ手に当たって、ガッシャーーンとケトルがひっくり返り、こぼれた熱湯が手にかかってしまった。

「アッ、熱っっっーー!!」

「やまね!なにやってるんだっ!!」

今までやまねのことなど、気にも止めてなかったはずなのに、一部始終を見てたような速さで帽子屋が飛んできた。

「早く、水で冷やせ!」

火傷を負ったやまねの腕を掴み、勢いよく水を出して、自分の腕ごと袖が濡れるのも構わずその中に突っ込む。

暫く、流水で冷やし帽子屋はやまねの火傷の具合を診る。

「それほど、酷い火傷にはなってないみたいだな」

「大袈裟すぎるんだよ。少し掛かっただけだよ」

「ほら、手を出せ。手当てしてやる」

「い、いいよ、自分でやるから!」

「どうやって片手で包帯を巻くんだ」

救急箱を持ってきた帽子屋に渋々、火傷した手をやまねは差し出す。

帽子屋が塗り薬を指に取り、やまねの傷に触れる。薬が肌に触れた瞬間、冷たさに思わずぴくりと反応してしまう。
帽子屋の指先が肌を撫で薬を塗っていく感覚と、ピリピリとした痛みが走る感覚がないまぜになって、やまねは落ち着かなかった。

薬が塗り終わると、帽子屋がその長く綺麗な指で、器用にくるくると包帯を巻いていく。

「ほら、終わったぞ」

「……………ぁりがとう…」

今の帽子屋との距離感にいたたまれなくなり、やまねは取り敢えず小さな声でお礼を言うことだけには成功する。

帽子屋はやまねの珍しいその言葉に少し驚いたが、すぐにいつもの帽子屋得意の意味ありげなニヤリ顔に戻り、

「礼なら言葉より、他にして貰おうか」

と、そのままやまねの火傷した手を取り、包帯していない指を口に含んだ。



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