あれだけ熱く説明していたのだから、さぞかし由緒ある伝統のお祭りだと思っていたのに……。

ポチが少し呆れた顔で見遣ると、言い訳するようにアリスが口を開いた。

「別に嘘は云っていないわ。ただ私のいた国のお祭りじゃなくて、真琴のいた国のお祭りなのよ」

アリスが何気なく口にした言葉に、ポチはぴくっと肩を揺らしたのだった。



『真琴』……………。

アリスは数年前に別の世界から、この不思議の国に迷い込んでしまった異世界の人間。

その際に、やはり同じ時にこの国に迷い込んで来た男の子と身体と心が入れ替わってしまったのだという。
にわかには信じられない話だけど、この不思議の国なら、有り得ない話ではない。

その時にアリスと入れ替わってしまったのが、『真琴』だった。

聞かされた時は驚いた。
だってアリスが男の子の身体で生活をしていたなんて想像がつかない。
ましてや、アリスの身体に別の男の精神が入っていたなんて、ポチは考えるだけで内心穏やかではいられなかった。

アリス自身は、大変な事もあったけどいい思い出よねーと、暢気に懐かしむだけで全然気にしていないのが、またポチの癇に障る。

それにアリスが『真琴』のことを楽しそうに話すだけでも、胸の奥がもやもやして、微かに心が痛むのだ。

『真琴』という名を聞く度に、苛々とした嫌な感情が頭をもたげてくるのだった。

「………ポチ?どうしたの?」

動きを止めてしまったポチを心配そうにアリスが見上げてきた。

心の闇に囚われていたポチは、はっと我に返る。

「何でもありませんよ」

醜い嫉妬心を悟られないように完璧な作り笑いを浮かべると、アリスはその笑顔を少しも疑わずに、

「そう。じゃ、書き終わったら、笹に飾り付けに行くわよ」

と、ウインク付きの笑顔で返すのだった。



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