そのまま彼に抱き寄せられる。
髪を梳かれ、腰に回った腕で力強く抱きしめられる。
まるで子供をあやすかのようだ。

彼の胸元に顔をうずめると目の前には蒼い薔薇のタトゥーが咲き誇っていた。
そこから君の匂い、鼓動、温もりが伝わってくる。

でも、それだけでは物足りなくなって、五感全てで彼を感じたくって、その薔薇にそっと口づけて軽く歯を立ててみた。

「っつ!……」

微かな痛みを感じたのか、彼はピクッと反応する。

強く噛みすぎたかと思い、今度はその場所を舌で癒すように舐めた。

「……あまり可愛いことをするな。先ほどのでは足りなかったか?」

彼は苦笑いをしながら、俺の唇に自分のそれを重ねてくる。

先ほどまで激しく情熱的に肌を合わせていた時のキスとは違う、
触れ合うだけの優しいキス―――。

そうされるだけで落ち着く。
全てに安心する。

だけど安心するのに、また苦しくなる。

こんな近くにいるのに、
触れ合える距離にいるのに、
何故、不安になるんだろう?

こんな気持ちは知らない。
知りたくなかった――――――。

もう一度あの蒼い瞳に見つめられ、

「まだ起きるには早い、もう少し眠れ」

「ああ……」

と彼の腕に閉じ込められる。

普段は冷たい印象を受けるいつもの君とは違う、優しい温もりに包まれる。

瞳を閉じれば、瞼に鮮やかに蘇る。
あの夜明け前の空。
明るくなる前の一瞬の、深く蒼い色が。

その蒼い色に溶けるように、
眠りに誘われる。

紺碧の空を思いながら眠ろう。
君と夢で逢えることを祈りながら眠ろう。

俺の銀色の髪に啄む口付けを落とし、
君は云う、





「おやすみ、ダム」―――――。


end.




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