なんで、そんな悲しそうな顔するの?
なんか悩み事でもあるの?
今、王様がしようとしていることと関係あるの?
ハートの王の悲しみが伝染したようにチェシャ猫まで胸が苦しくなる。
今、話せないことが、人間でないことがひどくもどかしい。人であったら抱き締めて、慰めてあげられるのに。
王様を見詰めてチェシャ猫は、にゃぁーと小さく鳴くことしかできなかった。
と、いきなりハートの王はチェシャ猫の抱き上げ、その柔らかな毛並みに顔をうずめた。
チェシャ猫は王様が泣いていると思った。
でも濡れた感触も冷たさも感じなかった。
きっと涙を堪えている。
猫(俺)の前でさえ泣けなくなったのかな?
チェシャ猫は知っている。
小さい頃、王様がよく隠れて一人で泣いていたのを。
でも猫だった自分だけには涙を見せていて、チェシャ猫がその涙を舐めては慰めていたのだ。
なのに今は自分の前で泣かない王様を心配する。
前の王様も云っていた。
王様っていうのは孤独なのだと。
お金や権力に擦り寄る輩が陥れようと裏切るかもしれない。
弱みを見せてはいけない。
誰も信じてはいけない。
そんな猜疑心に取り憑かれ、人を信じられなくなるのだと。
その時は猫だったし、チェシャ猫はよく判らなかったが、そう話してくれた前の王様からも『ウラギリネコ!』と罵られ疎まれたことがあった。
そんなことがあってチェシャ猫は漸くその言葉を理解したのだった。
もし、今、心のなかを全て王様に見せられるなら、俺は裏切ってなんかないよと、王様のことが大好きだよってさらけ出したかった。
チェシャ猫はその気持ちを伝えるかのように、王様の顔をぺろっと舐めた。
ハートの王は少し驚いた顔をしたが、すぐに嬉しそうに笑う。
それに気を良くしたチェシャ猫は調子に乗って王様の顔を余すところなく、舐めまわした。
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