チェシャ猫が人として生きるために一度城から出ていった。
そして軍属としてチェシャ猫が戻ってきたときには、チェシャ猫と王様の立場は違っていた。
王と臣下――――。
という垣根ができて以来、王様と会う機会は減ったけど、それでも王様とはずっと仲良しでいるとチェシャ猫は思っていた。
時折、ハートの王が遠くから白うさぎたちといるチェシャ猫を、羨望と寂寥の眼差しで見ていたのをチェシャ猫は知らずに………。
変わらずにいると思っていた。
でもある日から王様は変わった。
チェシャ猫のために開けられていた窓は閉じられ、ディー以外の人を遠ざけるようになったのだった――――。
猫の姿の自分を見て、動かなくなった王様に痺れを切らしたチェシャ猫はまた、にゃあと鳴いて王様の座っている横に飛び乗る。
ハートの王は物思いに沈んでいたため、間近にきていたチェシャ猫に驚く。
でもすぐに破顔して、優しい表情になる。
「それにしても、猫だった時のチェシャ猫にそっくりだな………!もしかして、お前、チェシャ猫の子供か?」
「にゃあにゃああんっ!……うにゃあうにゃうにゃにゃー………」
(そんなわけないだろっ!……そりゃあ、やんちゃしていたかもしれないけど…)
チェシャ猫は今は普通の猫だということを忘れて、最後の方は思わず言葉を濁すように鳴き声を小さくする。
ハートの王は手を伸ばし、楽しそうにチェシャ猫の喉元を擽る。
久しぶりの王様の笑顔と手の感触。
懐かしい笑顔と手の温もりは良く知っているものだった。
チェシャ猫はそれが嬉しすぎて、ぐるぐると喉を鳴らし、その手にじゃれついた。
暫く、チェシャ猫の毛並みを楽しんでいたハートの王は、
「お前は、いいな自由で。どこにでも行けて」
と、ぽつり呟いた。
今まで楽しそうにしていたのに、目をふせがちにして、悲しそうな顔している。
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