純全たる誠実に次ぐ | ナノ

要は、自分の夫と息子のこの家族というものを、ひどく奇妙なものだと認識していた。血のつながりも薄く、夫に至っては息子とは全くなんのつながりも無い。顔立ちだって、ひとかけらも似ていないし、要だってそれは同じだ。瞳の色も、髪の色も全く違う。初流乃に至っては実の父に似ているというよりもむしろ、長年要の家族であった、ジョースター家の顔立ちだ。けれど三人は確かに親子で、ひょっとしたら、要と夫の親友である空条承太郎よりも良好な親子関係を築いているような気がしないでもない。

「マードレ、ぼく、ジェラートが食べたい」
「昼食が食べられなくなるから、今はやめとけ」
「…パードレ、チェリー味なんてのがあるよ」
「え、要……」
「……半分ずつにしなさい」

まったく、マードレはパードレに甘いですね。やれやれと言ってみせる息子に、軽くデコピンをかます。最近、どこで覚えてきたのかわからないが、やけに敬語を使うようになった気がする。ユノーを引き連れて、二人はいそいそとジェラードショップに入っていった。
一人で木陰のベンチに腰掛けて、花京院要は静かに考える。
自分が人の親になるだなんて、思ってもみなかった。接し方がわからないと悩んだ時期もあった。けれど初流乃の生い立ちがなんとなく自分と被って見えて、きっとそれが最初の一歩だった。いっそ同情だったのかもしれない。人の顔色ばかり伺う子どもであった初流乃を、抱きしめることが出来たのは。
仕事の都合上、三人はイタリアとアメリカを行ったり来たり、いわゆる転勤族というやつだったが、初流乃と過ごす時間をないがしろにしたことはなかった。それは要が、夫が、幼少期に感じていた『ひとりぼっちの寂しさ』というものを、初流乃には感じさせたくないという思いからくるもので。かつて二階堂要が花京院典明その人に出会って、自分の人生が大きくうねりを上げるようにして変わって。初めて生きていることを実感したものだ。それから紆余曲折して現在に至るけれど、要がどんなに変わってしまったとしても、彼が要に見せる態度は全く変わらないだろう。
そんな安心感が、なによりも要は心地よいと感じていた。自分たちは初流乃に、そんな『安心感』を与えることが出来ているだろうか。
後ろ盾には財団がつき、初流乃に反抗期が来ることもなく、彼はどういうわけか、自分の出生についても納得している。まったく自分に似て聡い子どもだというか、アダルト・チャイルドだとか、色々思うことはあったけれど、とりあえず前途洋々であることが、全く奇妙な話だと思う。
二人で一つのチェリージェラードを分けながら、二人がジェラードショップから出てきた。

「マードレ!」

初流乃の笑顔に、自然と頬が緩むのが分かる。差し出されたジェラードを一口もらって、初流乃の頭を撫でた。口の中に、さわやかなチェリー味が広がった。
答えは見えないけれど、要は今の生活に満たされている。

結局、ショッピングモールでは、これといっためぼしいものは見つからなかった。アメリカの製品はどれも同じような見た目だし、貰って嬉しいものは判別付け難い。承太郎も、彼の奥方も、日本的なものがなんだかんだ好きだったことを要に指摘されて、それじゃあと最近できたジャパニーズ・スーパーマーケットに足を運んだ。
初流乃はとうに疲れ切ってしまって、典明の背ですやすやと寝息を立てていた。

「初流乃も、だいぶ重くなったね」
「最近はよく食べるから、それだけ身長が伸びてる。最初はガリガリだったけど、最近はそんなこともないし」
「きっと将来は承太郎みたいになるかもしれないな」
「……」
「何嫌そうな顔してるの」
「そういう典明はなんでそんなに嬉しそうなの」
「だって承太郎、かっこいいじゃないか。控えめに言っても」

身長195センチの巨人になるとは思いたくない。要は眉間にシワを寄せたまま言った。
そういえばジョセフにしろ承太郎にしろ、規格外に大柄であったことを思い出して、典明は苦笑した。

「DIOだって、それくらいの身長だったような気がする」
「もう約束された遺伝子なんじゃないの、それって」
「……。あと、私が倒れて、旅に出るとかそういうことはあって欲しくない」
「まさか…そんな」

典明は乾いた笑い声をこぼす。

「そんなことが起こったら、きっと要もユノーも黙っちゃいないだろう?それに、君はそんなにやわな体にできてない」
「そうだった……あ、これなんていいんじゃない」
「和菓子?そうだね、徐倫の口に合えばいいけど…」

空条家の元気なお姫様を思って、要も小さく笑った。



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