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ブランコが空を切って、かなりの高さから飛び降りた二階堂は見事に着地した。花京院は二階堂の運動神経のよさにただただ驚くばかりで、おお、と感嘆の声をあげてぱちぱちと拍手をした。

「体操の選手にでもなれるんじゃない?」
「いやだよ、もし鉄棒から落ちたら、最悪死ぬかもしれないし」
「ブランコだって最悪死ぬよ。ねえ要って、体育でも、いつも手を抜いてるみたいだけど、本気出したらすごいんじゃない?」
「目立つのは嫌だ」

二階堂は少し眉を寄せて言った。もったいないなあ、と花京院は苦笑いする。それこそ友達を作れるのに作ろうとしないお前のほうがもったいないと二階堂は言いたくなったが、これに関しては今の話題とは関係ないし、無駄なおせっかいと言う奴かもしれないと思って喉に留めておいた。秋の冷たい風が花京院の頬を撫でたものだから、花京院は小さくくしゅんとくしゃみをしてみせる。それに気づいた二階堂は、「寒いのか?」と無表情なまま訊ねた。

「ううん、そういうわけじゃないよ、ちょっと風がつめたかっただけなんだ」
「確かに、最近はよく冷え込むからな」

二階堂ははあ、と息を吐いてみた。まだ白くはならないから、とんでもなく寒いというわけでもない。けれど秋がどんどん深まっていることは確かだ。もうすぐ、冬が来るだろう。雪ん子が飛んでいるのをユノーが見つけて、それを叩き潰そうと必死だった。二階堂はやれやれと言わんばかりにユノーの尾を掴む。花京院はそれを見てくすりと笑った。

「何か暖かいものを食べよう。私も寒くなってきた気がする」

そんな二階堂の提案に乗って、花京院はジャングルジムに掛けてあったランドセルを取りにいく。二階堂のぶんもついでに持ち上げたが、中身がほとんど空っぽでがらんと筆箱が転がる音がした。
二人は公園から一番近いコンビニに入ることにした。個人経営のこの店に二階堂はすっかり常連と化していて、だいたい冬場になると毎日おでんを夕食に買っていく二階堂を、気のいい店主は気に入っているようだった。確かに誰しも、顔立ちの整った少女に通い詰められては悪い気はしないだろう。今日も店主はご機嫌で、餅巾着と大根、白滝を買った二階堂に、卵を一個おまけしてくれた。ついでに二階堂は花京院にと肉まんをひとつ注文する。

「いいの?」
「だって、寒いし」

二階堂は花京院の目を見なかったが、花京院にはそれが照れくさくてのことだとすぐにわかった。証拠にユノーが二階堂を冷やかすようにしてつつく。二階堂はユノーを叩こうと手を振り上げたが、狐はひらりと身軽にかわしてみせた。
そんな一人と一匹を交互に眺めて、花京院はくすりと笑った。

「要、このあとはどこへいこうか」
「どこだっていい、君が行きたい場所に行こう」

二階堂は大根を頬張りながら言った。花京院は、まるで絵にならない、ミスマッチな異国風の美少女とおでんという組み合わせを可笑しく思いながら肉まんを頬張った。

「僕も、要といられれば、どこだっていいかな」

二階堂にちょっかいをかけるユノーを眺めながら、花京院は小さくつぶやいた。二階堂は無表情のままだった。ひょっとしたら、ユノーに気を取られていたせいで、聞こえなかったのかもしれない。花京院は「じゃあ、図書館がいい」と言い直した。またかよ、と、二階堂が小さく返す。だって他にめぼしい場所もないじゃないか。花京院は小さく肩をすくめた。



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