遺物 | ナノ

※名前変換なし、現パロでもって伊作が鬱







そうだな、まずは僕の話から始めるとしよう。

僕は不幸にまみれた人生を送ってきた、なんて自分から物語ってやまない不幸論者とは違う。彼らはそれに自分のアイデンティティを見いだしているんだろうけど、それに対しての僕はいわゆる偽善的な精神を持った貧乏籤そのもの、狡賢な偽善者とでもいうべきだろうか。今までの人生なんて振り返ったってしょうがない、なんたってまるで他人のスプラッタを目の前で見せ付けられているような錯覚に陥るんだから、僕に過去なんてものは必要ないんだ。けれど僕の中のそれらは消えることなく、それこそ普段は平静を装って、じっと精神の片隅で息を潜めて黙っているんだけど、ふとした瞬間、たとえばそうだな、僕が何かそれらの気に障るような行動を起こしたとき、その黒々とした泥のようなそれは途端に僕のこころの白い部分に侵入してくる。僕の目の前に、スプラッタが映し出される。その光景は大抵僕が誰かの不運を買って出た(もしくは押し付けられた)結果から造られてきたもので、だいたい誰かの不運のオルタナティヴとして僕が選ばれたその記憶自体が理由なんだ。言ってしまえば僕は紛れもない世渡り下手な偽善者だ。結局暴れるそいつを抑えることもできないで心の中に反吐を撒き散らすんだから。僕の心の白い部分が侵されてしまうと、僕はそれをクリアにするべくデッキブラシを持ち出して、泥をもとあった鍋の中に押し込むべく、擦って、磨いて、けれどその黒い筋は薄く残って消えない。これは所謂、それを思い出した時の苦々しさというやつだ。僕は白い雑巾を持ち出して、それを拭う。白いバケツの中のクリアな水でそいつを洗い流して、それを拭う。ほどほどに綺麗な白に戻れたそこで、掃除は終了、僕はコーヒー片手に読書に戻るんだ。バケツの中の水?それはあの忌々しい泥の詰まった鍋の中に捨ててきたよ。少し水っぽくなったそれを陽向に置き去りにして、蒸発してしまうのを待っているんだ。そんな感じで、醜い泥もとい僕の過去は処理される。笑えるだろう?
そいつの気に障る時、それがどういうときだか説明しておこうか、僕が誰かの代わりに成り代わらなかった時、だよ。そいつは僕の耳元で叫ぶ「それはお前の役目だろう!」ってね。僕はそれを知らんぷりする。それでも完全に保身を図ってるつもりなんだ。結局逃げられないで、心臓のすぐ下が熱くなる、そいつが喚く「お前は狡い奴だ」って。仕方ないだろう?僕は狡いんだ。僕だって人の代替品なんて厭なんだ。認めて貰いたくて、結果的に誰かの足を引っ張ることになっても。そんなことを主張したって見下されるのがオチだとわかっていて、そういうことをする。他人の迷惑に他ならないのに、僕は自分の辱めを避けたがるんだ。他人の辱めをみるのも、正直嫌気がさすものだ、でもきっとそんなの僕の偽善精神からくるものなんだろう。心の中で手を合わせる、僕が替わらなくてごめんなさい、ってさ。けれどどうしようもなく避けられないのが運命ってもので、だいたいは籤運に分類されるんだけど、僕の籤運の悪さといったら無い。赤の他人の担任の教師にまで憐れまれる程なんだぜ?僕にとって席替えなんていう忌々しいイベント、他にはなかなか無い代物だ。強いてその忌々しさレヴェルを言えば……いや、耐え難い苦痛を説明したって仕方がないか。僕は大抵いつも、貧乏籤を引かされる。こいつは悲観主義なんかとは違う。客観的に客観性を持った統計学上の結果から言えることだ。僕の人生もほとほと見えたようなものさ、僕はこれからもそれなりの所で貧乏籤を引かされながら生きていくんだろう、誰かさんの幸運の残りカスのおこぼれに与ったような、小さな幸せを時には貰いながら、さ。絶望的な運命だと思うかい?まあ幸運がゼロでは無い限り生きる価値のある人生だというかもしれないね。僕の見解としてはこうだ、「死ぬ価値のない人生」。そう、そんなかんじ。僕が死んだらアレだろう?ほら、僕のオルタナティヴが必要になる。そんな代替品を用意して貰わなければならない程価値のある人間じゃ無いってことさ。こんなことを言ったら悲しむ人がいるかもしれないけど、所謂「これから生きていくことにかかるリスク」と「これから死ぬことにかかるリスク」を比べてみろよ、普通前者の方が軽いだろ?生きていこうと思えばそれこそ人間なんて、どんな状況だって生きていけるんだ。どんな結果に落ち着くかは知らないけどね。ただこれから死のうと思うなら、僕たち人間は色々な準備をしなくちゃならない。首を吊るならロープを、首を切るなら包丁を、飛び降りるなら窓を開けて、睡眠薬を大量に用意ってのも大変だよね。まあその面倒な準備、それにかかるコスト、時間、それが苦痛じゃなかったとして、さて第二ステップ、僕たちは死ななきゃいけない。多大な苦痛を味わいながらね。考えてみろよ、そんな苦痛、生きてる方がまだましさ。

だってさぁ、死ぬとき人は走馬灯を観るんだろう?

僕にとっちゃあそれ以上の苦痛はないね。

だからそれを後回しにして、せいぜい今を生きることにしてるんだ。
そんな人生きっと悪くないだろうからね。






(だから君も僕を嫌ってくれたっていいんだ)







110227



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