小咄 | ナノ

クリスマスに柊の葉を飾るのが、実はあまり好きではなかった。棘のある植物にはあまり、いい思い出がないせいだ。だいたいあれには赤い実がついているから、余計に苦手で、さらに言えば、賛美歌を歌うのも、昔からあまり得意ではない。最初は好きだったような気がする。主を讃えるあの詩が、あの空間に響いて、幾重にも重なる幻想的な旋律が。もともと聞いているのが好きだったんだ、歌うのだって、好きにもなるもんだろう。どうして苦手になってしまったのか、あまり思い出したいことでもないけれど。通わされていた少年合唱団を率いていた教師が最悪で、定型通りの型に当てはまる……つまり、彼の望む範囲内での"普通な"子供でないと、徹底的に叩き潰して、その合唱団からはおろか、コミュニティからも排除するというどうにも仕方のない性質を持っていたおかげで、すっかり楽しく歌う方法を失くしてしまったってこと。そもそも、自分の人生を選ぶことの叶うこの年になって、律儀に自分が神学校にいるのかも、考えてみれば、それ自体がおかしな話なんだろう。

「悪魔の子?それはまた…ずいぶんな言われようじゃあないか」
「ほんとだよ、一体、僕が何をしたっていうんだろうね」

大げさに肩をすくめてみせれば、エンリコはゆっくりとした動作でマリア像の土台に体重を預けながら苦笑いを浮かべる。

「僕は君の歌うメサイアが好きだけれどね……まあ、多少なりと君が変わっているッてことは、否めないか」

そう言われたからには、どうにも反応に困ったのだろう。苗字はゴホゴホと半ばむせるようにして、それでもなんとか一滴たりとも溢さないまま口の中のワインを飲み干してから、彼は顔をしかめて素っ頓狂な声を上げた。

「エッ、嘘だろう?初耳だぞ、そんなの!それになんだよ、君まであいつらと同じようなことを言うのかい?」
「いいや、そんなつもりは…ただ」
「"ただ"?」
「なんでもない」
「おいよせよエンリコ、僕たちはそんな仲じゃあないはずだぜ?」
「……どうにも言葉にするのが難しいんだ、だが苗字、君は、やっぱりどうしても、"変わっている"ところがあるんだ」

とにかく、どうにも掴み所のない男だ、というのがエンリコの彼への感想で。ただこうして、人の立ち寄らない納骨堂で隠れて、どこから持ってきたのかワインを飲みながら煙草を吸うし、ここまで手癖の悪い神学生はいないのだろうと思う。それでもどういうわけか彼の素行の悪さは"噂"しか残らないから、神父たちが頭を悩ませているのを知っていた。彼は幾人もの神学生を堕落させてきたのだから、悪魔だなんて、呼ばれているのには、そういった所以もあるのだろう。煙草の煙を吐き出して、彼は喉の奥を鳴らして笑った。

「でもなあ、エンリコ。僕は最近、それでも構わないと思うんだ」
「?…どうしてだい?」
「悪魔は地獄で、罪人たちを裁くんだ、それってつまり、そこらの人間なんかよりはマシってことさ。それに天国でボケっとしているより、きっと、ずっと楽しいだろう」
「なんというか…君はやはり、相当変わってる」
「おいよせよ、僕にはわかる…君だって、僕と同じだ」
「どういう意味だ?」
「ハハ、気づいてないのか。君だって、ソートー変わってるんだぜ」

きみはいずれ、コッチ側に来る筈だ。彼はそう言って、最後の一口のワインを飲み干した。「さあ行こう、そろそろ掃除を終えていないと、僕たちはとても面倒なことになる」立ち上がって、その歩みはほとんど千鳥足で、エンリコは思わず顔をしかめる。

「飲み過ぎだな、ワインの臭いが染み付いてる」
「まあね、僕の血はワインで出来てるから」

全く大した冗談だ。上機嫌に鼻歌なぞ唄いながら、彼は両手を壁についてなんとか階段を登っていく。今の彼には、石ころをパンに変えるのは無理そうだなと苦笑して、エンリコは仄暗い納骨堂を振り返る。
視界のどこにも、空のボトルは見つからなかった。


(ペニィ・レーン:殴った軌道上に物体を通過させる能力)



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