夢を見た。 広い部屋をぼんやりと明るく照らすようにして、浮き上がる視界。 レンガの積み上げられた壁、どこまでも続くんじゃないかと錯覚するくらいには長い廊下。 ここのことを、「聖宮」と、彼はそう呼んでいた。 その場所をただ歩き回る。美しい部屋にたどり着く。 そこにひとり、眠っていた子どもはもういない。 がらんどうに開いた扉、ひどく懐かしい光景が広がってた。 「やあ、ソロモンの守人じゃあないか」 ごろりと転がった巨大な生首が、わたしを見つけてにっこりと笑った。 どうリアクションをとったものかと一瞬迷うけれど、彼が元気そうに笑っているから、きっと大丈夫なのだろう。 「久しいね、元気そうで何よりだよ」 番人はわたしがあえてなにも突っ込まなかったことに、満足したのかもしれない。 彼の周りでうごめく何かを見て、彼が一人でここに残されるなんてこともないのか、と安堵した。 物珍しそうにしているわたしに、アラジンが行ってしまってから、俺がつくったんだ、と番人は言った。どうやら彼は、一人の寂しさというものを覚えてしまったらしい。 「きみがここに来るのも、今日で最後かもしれないね」 そういった番人に、そうか、と小さく声を漏らす。 伏し目がちの瞼から、少し寂しそうな気配がしたので、わたしかて寂しいさ、と苦い顔をした。 「夢の中とはいえ、世話になった。本当に、感謝しているよ」 「そんな。俺がしてあげられることなんて、これっぽっちもなかったさ」 「ところで訊くけれど、君の体は、いったいどこへ?」 「アラジンと一緒だ。俺は完全にはここからは出られないけれど、君と共に、運命の逆流から彼を助けるためにね」 「君はもう自由の身であるというのに。……これではわたしの面目が立たないじゃないか」 「そんなことはない。きみにはきみの、ルフの大いなる使命がある」 番人は、自嘲気味な笑顔でつぶやいた。 「……俺は…ただ、最後まで彼の願いを叶えてあげたかったんだ」 それもそれで、いいんじゃない。わたしは笑って、それから、無性に悲しくなった。 「……これできみとの会話も最後と思うと、寂しいなあ」 「俺も。でもきみも、もう、行かなきゃ」 そう、彼はもう、発ったのだから。 わたしは彼を守るために巡り着いたのだから。 陰りを見せるあの世界に、目映いばかりの光をもたらすために、一人立ち上がらねばならない彼を、支えるために。 「さようなら、聖宮の番人」 「さようなら、ソロモンの守人」 彼の周りの生物が、両の腕を象って、大きく広げて、叫んだ。 「開け、ゴマ!」 かくしてわたしは、最後の夢から目覚めたのである。 ← ▼ → ×
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