ソロモンの守人 | ナノ

夢を見ていた。
ここは、いつもの、あのひんやりと、じめじめしたうす暗い場所とは違って、ぼんやり明るいから、夢だとすぐに分かった。
随分前にここに来たような気がして、辺りを見回す。やはり見覚えのある場所だった。
ここは、せいきゅう。
青い巨人が番人をしているところ。
その巨人は、今は見当たらない。どこにいるのかは知らない。
探そうか、一瞬迷ったけれど、前に来たときは、ずいぶん長いこと歩いた気がする。それに、わたしの身体は、前に比べて、ずいぶんと、脆く小さくなってしまった。
歩くのもやっとのこと。
探し回るだけ、きっと疲れてしまうだろう。
今日だって、そうだ。
たしか、ものすごい熱を出して、体中が燃える様に熱くて、凍えるみたいに寒かったのに。
今はなんともない。
前みたいに、わたしはまた死んでしまったのだろうか。
だったら、隠れなきゃ。そう思って、曲がり角。通じていた横穴に入ってみる。どこか、もう少しあたたかくて、目が覚めるまで、ゆっくりできる場所があればいい。もう、産まれるなんてのはこりごりだ。せめて見つからない様に、隠れないと。
暗かった穴を手探りに進むと、本が沢山積まれた部屋に出た。久しぶりに、こんなにたくさんの本をみた気がする。久しぶりなんていったって、いったいいつぶりなのかもわからないのだけれど。
埃ひとつない、けれど、懐かしい本の匂いがして、どうしてか、読んでみたくなる。
けれど、読める文字なんて、一つもないことは知っていた。
もともとわたしの知っていた言葉はどうにも勝手が違うらしくて、不便極まりない。
番人がいれば、言葉を教えてくれたかもしれないけれど、彼も今は見当たらない。
しかたなしに、腰を下ろす。一番近くにあった本を手に取った。
なんて書いてあるのか、わからない。とにかくむつかしいことだというのはわかった。
むつかしいといえばあれだ、かの巨人はわたしになんと言ったっけ。
ソロモンのもりびと、とか、なんとか。
いったいなんのことなのか。見当もつかない。けれど、きっと、なにか重大なことなんだろうってことは分かった。
大人はいつだって、勝手に物事を決めてしまうから、きっと、そういうことなんだ。
子どもはいつだって、いろんなものを背負わされて、大人になっていく。
そうしたら今度は、今まで背負ってきたものを、勝手に、誰かに、売りつけたり、押し付けたりして、醜い争いをしないきゃいけない。そういう大人になりたくなかったひとは、きっとたくさんいるんだろう。けれど、ならざるをえなかったんだと思う。
だからせめてわたしは、大人になろうと思って、大人にならなきゃならない。
大人達が押し付けてくるものを、寛大にうけとめなくちゃいけない。
そうしないと、わたしはきっと、また、おしつぶされて、あのあわれな大人達とおなじになってしまうだろうから。

わからないなりにめくっていたページが半分くらいになったところで、わたしは眠くなった。夢の中なのに、眠くなるなんて、おかしな話だと思う。
けれど眠いものは眠い。仕方ないから、抱えていた本を枕にして、眠ることにした。
目覚めたらきっと、また、あの薄暗い場所なのかと思うと、気が滅入る。




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