ソロモンの守人 | ナノ

ひどく気分が悪い。
例えようもない不快感。
気晴らしに煙草でも吸おうと思って、胸ポケットに手を伸ばす。
広げたはずの手のひらが、どこにも見当たらなくて、もう自分の右腕がなかったことに、もう一度気がついた。
ついさっきまで、ぶら下がっていたのに。
あんなに重宝していたのに、どこかに落としてしまったようだ。
たしかに感覚は、あったと思うのだけれど。
脳がそう認識するくらいには、大事にしていたんだと思う。
おまけに、右胸ポケットの据えられていた場所は醜くも陥没していた。
最後に吸ったのはいつだったか。
煙草はあと、何本残っていたっけ。
ライター、結構高かったんだけどなぁ。
ああ、もったいないことをしたものだ。
やることもないから、しかたなく、嘔吐くようにして、空気を吐き出す。
呆れた。
もうどうにも、笑えそうにない。
なにも面白くないんだ、当然のこと。
とてつもなく黒い空が、落ちてきそうで恐ろしかった。
月が見えない。星は霞んでもう見えない。網膜が潰えた。
暗闇。
もうどこに立っていたのかもわからない。
浮いているのかもしれない。
子どもみたいに怯えて、馬鹿みたいだと思う。
もう考えることもやめにしよう。
すっかり、つかれてしまった。
どうせだから、楽しいことを考えよう。
そして幸福なまま、死ねたらいい。
楽しければ幸福なのか。
そんなこともなかったか。
だからといって、悔いの残る人生というわけでもない。
ここで終わるなら、大歓迎だ。
でも、まあ、最後に、煙草を一本、ふかしたかったかな。
そうだ、例えるなら、夢を見る前に、わざわざ目をつむって、どこにもいない羊をでたらめに数えているみたいな気分、ってのがきっと、相応しい。





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