ソロモンの守人 | ナノ

商隊の荷の仕分け作業を手伝わされて、ジブライルは片手に名前も知らない南国の果物の詰まった木箱、もう一方に山と積まれたリンゴの籠を運んでいた。ふと目を離した隙に、サアサの足元でちょろちょろと動き回っていたアラジンに、ライラが喝を入れる。

「いいか、サアサに妙な真似すんなよ…ひっぱたくぞ!」
「ひっぱたく…」

怯えたような目線でぷるぷると震えながらライラを見上げるも、彼女には効かない。どっさりと頭の上に瓜の詰まった袋をわたされて、アラジンはぐえっ、とカエルの潰れるような声を上げた。「すまないな…」日よけに隠れたジブライルの顔を見上げるようにして、「アンタは甘やかしすぎなんじゃないのか?」少し呆れたような口調だった。

「で?お前らは何の目的で砂漠に出て来たんだよ?」
「うん、僕はね!宝探しをしているんだ。友達と一緒にね!特に金属で出来た楽器とかランプなんかを探してるんだけど…」

アラジンの視線が金属器屋に泳ぐ。ライラは奇妙そうに首を傾げた。

「そんなもん、宝なのか?どこにでも売ってるじゃねえか。なんでそんなもん探してるんだ」
「友だちのさがしものだからさ!」

ライラが怪訝そうにジブライルを見上げる。ジブライルは「ああ、いや、私じゃない。私はアラジンの…ええと、アレだ、保護者」と慌てて付け足した。はたしてそれであっていただろうか、とアラジンを見やると、どうやら間違いではないらしいが、微妙な顔をしている。それ以外になんと形容したらいいのか、わからないじゃあないかと思って少し肩を下ろしたが、ライラはその説明に納得したのか、特に疑問を抱いている様子もない。「へえ……じゃあ、お前も友だち思いなのか」少し感心したような声で言った。

「うん、見つけて喜ばしてあげたいんだ、僕の大事な友だちだから、喜ぶと僕もうれしい!」

無邪気な微笑みを浮かべるアラジンに、ライラも頬を綻ばせる。アラジンはごそごそと懐を探って、金属の笛を取り出す。あ、やばい、と思ったジブライルが止める間もなく、アラジンはとびっきりの笑顔で言った。

「紹介するね!ぼくの友だちの…ウーゴくんです!」

なんとも言えない沈黙が流れる。ライラとサアサの視線がジブライルに突き刺さった。ジブライルも思わず目が泳ぐ。

「笛じゃないか」
「笛じゃない。ウーゴくんだよ?」

わからないの?と言わんばかりの眉間に寄った皺に、コテンと首を傾げたアラジン。ライラがアラジンとジブライルを交互に見比べて、可哀想なものを見る目でジブライルを見つめた。

「お前は一体どういう教育を…」
「いや、その…」

ライラのジト目を浴びて、どう説明したものかと言葉に詰まる。これはお手上げだ。ちらりとアラジンを振り返ると、笛に息を吹き込んでいた。「あ」ジブライルが止める間もなく、むくむくと笛から煙のようなものが吹き出して巨大な二本の腕を形づくる。それはライラの両手に抱えられていたいくつもの瓜をぶんどるようにして奪い取ると、一瞬にして笛の中へ引っ込んでいった。
無言で固まって動かないライラと顔を青くするキャラバンの人間たち、「ごめんね、彼シャイで…女の人相手で照れてるんだ」と説明するアラジンの声が遠い。
ジブライルの額から冷や汗がこぼれ落ちたのと同じくして、幾人もの悲鳴が上がる。あたりは騒然とし、ライラは尻餅をついて、サアサは固まったまま動かない。ジブライルは再び頭を抱えたくなった。子供の扱いはさして苦手じゃあなかった筈なのだがしかし、余りにもアラジンの行動は予想外過ぎた。
さして気にせずにウフフフ、と楽しそうなとうの本人の首根っこを捕まえて、抱き上げる。その頭を撫でながら一つだけ、深いため息を漏らした。




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