純然たる誠実に告ぐ | ナノ

ユノーが船倉から爆弾だったものを持ってきた。「なんじゃ、もうバラバラじゃあないか」ジョセフが安堵の息をついてから、二階堂に説明を求めるような視線を送った。

「船倉の隅の、コールタールの樽の床下から出てきた。ユノーが見つけたんだ。時限式であることはわかったが、時計が設置してあっただけで、あと何分、あと何時間、というのがわかるものは見つからなかった。だから一通り分解して、その爆薬でさっきの簡易爆弾を作った」
「他には見つけたのか?」
「いや…」
「僕が探してみましょう」
「カムフラージュされている可能性がある上に、衝撃を与えたら爆発する可能性が高い。慎重にな」
「今すぐ爆発するってわけじゃないだろうから、先に救援信号を送って、この船は…乗り捨てると言う手もあるな」
「しかしもうすぐ陽も暮れるぜ」

ポルナレフが傾いた太陽を見た。あと二、三時間で夜がくることは明白だった。しばらく考え込むようなポーズをとっていたジョセフが口を開く。

「ひとまず、このまま航海を続けよう。アヴドゥル、現在の状況を船員に伝えて、いつでも救助ボートが出せるように確認を。承太郎はその学生服を乾かさねばならんのう。花京院、ハイエロファントグリーンでできるだけ迅速に爆弾を見つけ出すんじゃ。要は花京院が見つけ次第、処理に向かってくれ、といいたいところじゃが……」
「?」

ジョセフの視線が泳ぐ。それを辿れば、こちらの様子をうかがっている少女の姿があった。

「手筈さえわかれば、承太郎のスタープラチナでも可能じゃろう。だから要、あの子の面倒も見てくれんか」
「ポルナレフが適任だ」
「要テメエ!」

さくっと押し付けようとした二階堂に、ジョセフが苦笑いした。「女の子同士のほうが余計な警戒もせんだろう」抵抗が少なく、安易な意思疎通が可能だ、とジョセフは言ったが、二階堂は心底まっぴらごめんだと思った。あれくらいの歳の子供と接したことはほとんどない。しかも船室で逃げ出さんと暴れ回っていたことを思い出すとますます嫌な予感しかしなかった。

「先にあの子供だけ救命ボートに乗せて漂流させたらいいんじゃないか」
「なんてことを言うんだ君ってひとは」

冗談だよ、花京院から目を逸らしながら呟く。八割方本気であったことは他の誰もが察していた。
「夕食の準備も頼んだぞ」ジョセフは二階堂にそう告げて、もういい好きにしろとため息をついた二階堂は、おとなしく踵を返した。

「……ポルナレフ、行くぞ」
「えっ俺もかよ!?」
「貴様だけ仕事もないとでも思ったのか…?まがいなりにもフランス人だろ、手伝ってくれ」

命令系ではなかったことに、ポルナレフは一瞬驚いたような顔をしたが「まがいなり、ってなんだよ!れっきとしたフランス人だぜ俺は!」それだけ反論して、二階堂の後ろにつく。少し離れたところから様子を伺っていた少女に目を向けると、好奇の入り交じった視線で二階堂を凝視していた。

「服の換えはあるのか」
「あんた達が話してる間に乾いちゃったわ。あんた、私が隠れてるの見つけた時なにもしなかった人でしょ?気に入ったわ!ねえ、要っていうの?」

ものすごい勢いで眉間に皺を寄せた二階堂に、ポルナレフはどこか人ごとのように美人が凄むと恐ろしいとはこのことかと思った。少女は二階堂が彼女の口上に付き合うのはさっさとやめて船室の中に入っていくのにぴょこぴょこと着いていっては、ああでもないこうでもないという話を続けていた。ユノーがポルナレフを見やる。この狐すら、げんなりとするような顔をしていた。

「これから晩ご飯作るの?」
「ああ」
「わたしも手伝っていい?」
「おとなしくしてるなら」

缶詰を開きながら、彼女にジャガイモをいくつか渡す。「皮むきは」「もちろんできるわ!」二階堂は少し遅れて狭いキッチンに入ってきたポルナレフを見やる。「けっこう食糧は豊富に詰め込まれてるみたいだった」船倉で見た、と二階堂は言った。

「肉は?」
「冷凍庫にあるだけなら使っていいんだと思う」
「ひき肉しかねーじゃねえか!」
「ファルシなら作れるんじゃないか、オーブンあるし、トマトもあった」
「そのジャガイモはどうするんだ?」
「塩バターソテーでいいだろ、ローズマリーがあった」
「フム、悪くないな」

適当な食材を取りにいく、といって船倉に入っていったポルナレフを見送って、二階堂はふと少女を一瞥した。妙に静かだと思ったら、皮が半分も剥かれていないジャガイモが赤く濡れていた。

「手を切ったか」
「ちょっと間違えただけ!」

ぷっくりと肌の上に浮かぶ血の珠に、軽く頭を抑える。ユノーを使って救急箱を取り寄せて、絆創膏を差し出した。

「洗って貼っておけ。そのジャガイモは捨てろ」
「ありがとう」
「食材を無駄にしたくない…もう手は出すな」

目をぱちくりさせて二階堂から絆創膏を受け取ると、二階堂の言葉をどう解釈したのか、少女はにやりと笑って言った。

「要ってツンデレなの?」

わけがわからない、という顔をして、二階堂は少女からジャガイモを取り上げた。ボウイナイフでするすると皮を剥き、てきぱきと下準備を進めるその手際の良さに、船倉から戻ってきたポルナレフが感心したような声を上げた。




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