純然たる誠実に告ぐ | ナノ

ポルナレフを花京院たちの部屋に文字通り放り込んでは、予定通り、部屋に入って真っ先にルームサービスをコールした二階堂は、シャワーをあびてからしばらく、ようやく本日はじめての食事にありつくことができた。ジョセフに自分の分も頼んでおいてくれと言われたから、狭いテーブルとキャビネットの上にはあれやこれやと様々な料理がひしめきあうようにして並べられていた。あたたかいマッシュルーム・ポタージュを啜りながら、二階堂は目の前に並ぶ壁二つを眺める。視線の先にいるのは、言わずもがな、空条承太郎とジョセフ・ジョースターであった。たしかここは二階堂とジョセフの2人部屋だった筈だ、そういう話だったと思うのに、空条承太郎はまったく部屋に帰る素振りを見せないで、先ほどからなにやらジョセフと話し込んでいる様子だった。香り高いスープに舌鼓をうちながらも訝しむような目線を送っていたら、やがて承太郎が振り返る。二階堂にむかって口を開いた。

「二階堂、この部屋にも補助ベッドを入れるよう、フロントに電話をしろ」
「…?」
「ポルナレフが向こうの部屋に入ることになった。ベッドが足りないんじゃ」

さいごのひと匙を口に含んだ二階堂は、これは嫌な予感がするぞ、と眉間に皺を寄せた。ジョセフはその予感を裏切らない。

「それで、承太郎がこっちの部屋に来ることになった。しかしこの図体じゃ…二階堂、その補助ベッドで寝てもらえるかの?」

二階堂はこれでもかというほど苦い顔をして、二人を見つめる。しかし彼らの中では既に決定事項だったのだろう。
(まったくこの爺孫は!)
二階堂は心の中で盛大に悪態をつき、口早にフロントにベッドと宿泊人数の旨を伝えた。それからルームサービスで頼んであったものから自分の分だけをガチャガチャとまとめてパンの入っていたかごの中に突っ込むと、ジョセフが止める間も隙もないまま、がちゃりとドアを開けてその部屋を後にする。
アヴドゥルと承太郎、そして花京院の部屋であったのは、隣の隣の部屋である。白いドアをドンドンと、ノックというには少々乱暴な所作で叩く。うち開きのドアを開き、「なんだ」と頭を出したのはアヴドゥルだった。二階堂は籠の中のパンに噛み付いたまま、部屋の中へと足を進めた。「要!」花京院が驚きの声を上げる。ベッドサイドに腰掛けて、口の中の食べ物を嚥下してはじめて、二階堂は口を開いた。

「アヴドゥルさん、部屋を変わってくれ」
「は?」
「部屋を変われと言ったんだ。私のベッドが空条承太郎に奪われた。だからわたしはここにきた」

ようは『ベッドが気に入らないから変われ』ということだろう。「ジョースターさんの許しは」アヴドゥルは焼け石に水も承知で小さく言ったが、二階堂はとっくに食事を再会させて聞く耳を持たないことは明白だった。まあ、花京院と二階堂なら、万が一のことがあっても大概のことなら対処できるだろう。そう判断して、小さくため息をつくと、部屋を出て行った。

「マナーが悪いよ、要」
「……」

主に二つの意味でだったが(いやむしろ、ウエイターを蹴り付けて昏倒させたり、花京院の思う所はもっとたくさんあったかもしれない)、二階堂当人は自分がベッドに腰掛けて夕飯を貪っているところだと思ったのだろう。小さく頬を膨らませて花京院を見やった。しかし花京院は譲らない。二階堂は黙って目を伏せて、きちんとバルコニーの前に据えられたテーブル席まで移動してから、まだ温かいチキンにかぶりついた。シャワーを浴びてきたのか、ポルナレフがベッドサイドに戻ってきた。二階堂を見つけては、両手を広げて驚きの声を上げる。

「要じゃないか!」
「なれなれしい」

すっぱりと切れ味のいいナイフで一刀両断したかのような二階堂の言葉に、花京院がくすりと笑いをこぼす。行く場を失くした手を下ろしてベッドに腰掛けたポルナレフに、苦々しく言った。

「そこは私のベッドだ」
「あ?」
「そこは私のベッドだから退けと言ったんだ。無駄だから、二度も言わせないでくれ」
「え、だって、そうしたら、そっちベッドは花京院のだぜ?俺はどうしたらいいんだ」
「補助ベッドがあるじゃないか」
「俺はこの中で身長、一番高いんだが……」

しかも年長者だぜ?眉を寄せたポルナレフに、二階堂はしれっと言う。

「貴様のせいで私は中華にありつけなかった、しかも今夜寝床が無いと転がり込んできたのは貴様だろう。当然のようにベッドで寝られると思うな。その馬鹿げた髪型のせいでベッドが狭いというなら床で寝ろ。それが嫌なら貴様が他に部屋を取ればいい」

めずらしく饒舌な、しかし辛辣なセリフを一思いに言ってのけた二階堂は、プレッツェルブレッドを齧りながらポルナレフを睨む。ポルナレフは「マジかよ」というつぶやきの後に、意見を求めて花京院をみやったが、目を逸らされた。じぶんを厄介事に巻き込んでくれるなという意志表示半分、二階堂が正論に半分、強いて言えばあとちょっぴり、二階堂に甘いというオマケがついていたのかもしれない。「わたしもなにか頼もうかな…」そういった花京院に、二階堂はバスケットを差し出した。「私はもういいから、残りは食べたらいい」チェリーパイが入っていたのを見て、花京院がきらりと目を輝かせる。

「まあいいけどよお…」

ポルナレフは渋々といった様子で頷いて、少し低いベッドに腰掛ける。腰が沈んで、スプリングは明らかに質の劣ったものだというのがわかった。




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