純然たる誠実に告ぐ | ナノ

目的地というのは、駅前の裏路地を少し進んだところ、いわゆるゲームセンターというやつだった。女子高生がポケベル片手に歩いていく。この世界にはまだ携帯電話という文明の利器は登場していないらしいと二階堂が知ってから、まだほんの数ヶ月しか経っていない。そのほんの数ヶ月の間に、二階堂は何度このゲームセンターに通ったことだろう。両手の指では数えられないくらいには通っていることは確かだ。齢六つにして既にアーケードゲーマーの二階堂は、煙草臭く騒々しい、お世辞にも柄がいいとはいえないこの空間のことが好きだった。やるのは決まって格ゲーかレーシング、椅子があって、且つ手の届く場所にコントローラーがあるからだ。前の人生ではなかなか手を出さなかったこれらのゲームであったが、クレーンゲームや音ゲーのコントローラー、文字通り手が届かないものは仕方が無い。選べる立場ではないということだ。そもそも二階堂はこだわりというものを持つことが少ない。今日腰掛けた格闘ゲームだって、たまたま、狐が興味深そうに眺めていたせいもあるかもしれなかった。ぼろぼろにすり切れたがま口から小銭を出して、プレイに必要なだけの硬貨を詰め込んでいく。背後で狐がぴょこぴょこと跳ねた。そうして二階堂はプレイに没頭する。画面の中では筋肉隆々の武人が強靭な拳から繰り出されるコンボを炸裂させていた。宙に舞った相手の肢体を紅い瞳が追う。足を掴んでひねり上げる、そのまま地面に叩き付けて、起き上がろうとした相手の顔の上にかかと落とし。地に沈んだ相手を更にこれからどうしてやろうかと考える、もう、二階堂は狐のことなんかおかまいなしだった。
そうして週に一、二度、ゲームセンターで相手をメタメタのギッタギタにすることが、二階堂の唯一の趣味だった。
とはいえ夕方六時を過ぎると、小学校一年生の二階堂がこの街のゲームセンターにいることは不可能になる。いつも通り、帰りたくもない場所に帰らざるを得ないというわけだ。中身の少なくなったがま口をポケットに押し込む。今日の夕食を買ったら、バスに乗るお金は確実になくなってしまうことだろう。究極の二者択一かと思ったが、二階堂はあっさり夕食をチョイスした。ハンバーガーショップが近くにあったかな、と思って席を立つ。いつもなら、それから早めの夕食をすませて歩いてのんびり自宅まで帰り、疲れでそのまま寝てしまうのが普通だったのだが、その日はどうにも違った。

「おい糞ガキ、ドコ見て歩いてんだテメエ」


(▼ 不良が 一匹 あらわれた!)

久しくプレイしていないRPG風に表現するならば、こうなっていただろうか。店の裏側、狭く薄暗い路地に半ば引きずられるようにして歩きながら、二階堂はぼんやり、今日の夕飯は何バーガーにしようか、とそればかり考えていた。



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