純然たる誠実に告ぐ | ナノ

一行は場所をカフェに移していた。
ジョセフが懐から差し出した何枚かの写真に、承太郎は眉をひそめる。それには一隻のクルーザーと、フジツボや海藻に覆われた、物々しい雰囲気を放つ錆びた鉄のかたまりが映っていた。

「今から四年前、その鉄の箱がアフリカ沖大西洋から引き上げられた。箱はわしが回収してある…分厚い鉄の箱は棺桶だ。ちょうど百年前のな……棺桶はおまえの、つまり五代前の祖父…つまり、このわしのおじいさん、ジョナサン・ジョースターが死亡した客船に積んであった物ということは調べがついている。中身は発見された時、既に空だった。わしと二階堂は、それを実際に見て、確認している。……だがわしらには、中に何がはいっていたのかわかる!わしと二階堂、そしてアヴドゥルは、『そいつ』の行方を追っている!」
「『そいつ』?ちょい待ちな……、そいつとはまるで人間のような言い方だが。百年間海底にあった中身をそいつと呼ぶとはどういうことだ?」
「中身が『生きて』いたんだ」

二階堂が口を挟んだ。

「そいつの名前はDIO……百年の眠りから目覚めた吸血鬼だ。私たちはその男に、浅からぬ因縁を持っている」
「我われは、その男と闘わねばならない宿命にある!」

しかし承太郎は、他所を向いて、まったく話を聞いているというそぶりには見えない。ジョセフがそれに怒声を上げる。彼の孫はどうにも一筋縄ではいかない捻くれ者であるらしい。同じく素直とはいえない性格の二階堂は、何を言うでもなく、無言のままコーヒーに口をつけた。二階堂も内心では彼に全く同情していたからだ。信じたくない、信じられない気持ちも分かる。しかし彼には、『信じざるを得ない理由』が多すぎる。ジョセフが左手を持ち上げた、その上にアヴドゥルがポラロイドをパスする。友人というよりはまるで従者だな、と二階堂は思った。

「理由をみせてやる。実はわしにも、一年ほど前、お前の言う悪霊…つまりスタンド能力がなぜか突然発現している」
「なんですってパパ!」
「じいさん…今なんといった」
「みせよう。わしのスタンドは……これじゃあ─────!!!」

ジョセフの茨がポラロイドを叩き潰す。ウエイターが物音に驚いたようだったが、二階堂が小さくなんでもない、といって追い払った。ジョセフがまだ像が映っていないフィルムを取り上げる。これが承太郎の運命を決定づけるものであると前置きした上で、自分たちの首の後ろにあるあざを確認させた。

「ジョースターの血筋には、皆この星形のアザがあるらしい」
「だからいったい、そのフィルムには何がうつるんだ?」
「今まで『気にもとめなかった』このアザが、わしらの運命なのじゃ」
「パパ!」
「てめーいいかげんに……」

いい加減承太郎が痺れを切らせたところで、ジョセフがフィルムを差し出した。そこに映った男の姿に、彼は絶句したようだった。

「DIO!わしの『念写』には"いつもこいつだけが"映る。そして奴の首の後ろにあるのは!」

あるはずのないそれが、その男には刻まれていたのを、承太郎は確かに確認して、目を見開く。

「このくそったれ野郎の首から下は、わしの祖父ジョナサン・ジョースターの肉体をのっとったものなのじゃあ──!!」

ジョセフは百年前の大西洋の事件を、若い頃ジョナサン・ジョースターの妻であるエリナ・ジョースターに聞いたことがあるという。その推測でしかないが、とにかくDIOは、彼の祖父の肉体を奪って生き延び、そして今、世界中のどこかに潜み、なにかを画策していることは確かだとジョセフは言った。

「やつが蘇って四年、わしの『念写』もおまえの『悪霊』も、ここ一年以内に発現している事実…おそらくDIOが原因!」

そしてそれは二階堂の吸血鬼化の進行の加速した時期にも重なっている。そして二階堂は一年ほど前、何かに『見られた』ような感覚を味わったことがあった。だから二階堂は、初めて空条承太郎に出会ったあの時、既に確信していた。『ジョジョの奇妙な冒険』は、始まりに近づいている、と。

「われわれの能力は世間で言ういわゆる超能力……おれや要のはもってうまれたスタンドだが、あなたたちの能力はDIOの肉体、つまりジョナサンの肉体と見えない糸で結ばれている。DIOの存在が、あなた方の眠れる能力をよびさましたとしか、今は言えん」

アヴドゥルはそういうなり、席を立った。二階堂もそれに倣う。話はもう終わりだ、という合図だったのだろう。出口まで歩いていった三人を眺めたまま最後まで席に座っていた承太郎は、一度首の裏を確かめるように触れて、黙ったまま立ち上がる。ドアをくぐらずに振り返っては、彼のそんな様子を見ていた二階堂に向かって、承太郎は口を開いた。

「おいテメエ、じいさんに引きとられたとか言ったな……テメエにも、あるのか」
「……」

二階堂は何も言わずに踵を返す。後ろで小さく舌打ちが聞こえたが、答える気にはなれなかった。





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