【※警告】この先は読んではならない (…というくらいに、注意が必要な内容です。 死ネタ、グロ、殺人(殺す、殺される)、その他諸々地雷になりかねない描写。胸くそ悪くなるかもしれない。 上記の注意にピンときたらお戻りください。 本作品は「純然たる誠実」の主人公ではありますが、番外ともIFともつかないところにありますので読み飛ばしていただいてもけっこうな内容ですので、あくまで自己責任でよろしくお願いします) どこかわからない、いつだかに泊まったホテルだったのかもしれないし、ひょっとしたらだれかの部屋なのかもしれない。とにかくきちんと整った部屋で、生活感の三文字が存在しない、どこかじっとりとした雰囲気に包まれた、そんな世界だった。いつかのデジャヴを感じて、二階堂はこれが夢であることに気づく。よくある明晰夢というやつだ、世界は仄暗い。キャンドルのように頼りない照明に浮かび上がった世界の中に迷い込むのは、これが一体何度目だろう。 「要」 「そうだ、ここには君がいるんだった」 振り返ったベッドに、花京院が腰掛けていた。ぱちりと目が合うと、花京院はにこりといつも通りの柔らかい笑みを浮かべてみせる。理由のない、人当たりのよさそうな笑顔だ。それを見ている二階堂はみるみる間に苦々しい顔になって、やがて眉間に皺を濃くしたまま目を閉じる。ぐっと唇を噛み締めているようだった。 「この夢は、見たくなかった」 「どうして」 「どうしても、なにも」 自分の顔の筋肉が歪むのがわかる。もうほとんど泣き出しそうな顔をしているに違いない。 そのうち、二階堂の足が静かに後ずさる。顔を上げると、花京院は立ち上がっていた。 掌がドアノブを握りしめる。そこにあると思えばある、それが夢だからだ。 「でも、それが開くとは限らない。それが夢だからね」 花京院が近づいてくる。ガタガタと扉が震えるも、開かない。蹴破ろうにも、ここのドアはうち開きだ。 どうして、入る時は外開きだったじゃあないか、いや、気づいた時には既に入っていたから。それに、外開きだったのは前回までの話だ。今回は、うち開きなんだよ。 二階堂は力づくてドアを蹴りつける、鉄の扉はびくともしなかった。 「開かないよ、これは、そういう夢なんだ」 「嫌だ、来るな」 「どうして?だって、君はこれっぽっちも痛くないよ」 「それでも、嫌なんだ…」 扉に背を預けて、ずるずると膝をつく。拒絶するように伸ばされた手を、花京院はそっと、優しく握りしめた。 「泣いてるの?」 返事はない、二階堂は頭を垂れたまま、静かに震えていた。「これは必要なことなんだ」「どうして必要だなんていえるんだ」「だって」続けられた言葉を、二階堂が聞くことはない。 耳を塞いでいたせいでも、目を閉じていたせいでも、震えていたせいでもなかった。 いつの間にか、なだれ込む様にして。 拒否をするように突き出していた掌が、 ベッドのスプリングに沈んでいく首に、 触れる、 受け入れる、 絡み付く、 抵抗をしない、 息が荒くなる、 その頬を撫でる、 身体が震える、 苦しくなる、 歯がガチガチと、 視界が白む、 泣いている、 笑っている、 いきができなくなる。 荒く息を繰り返して、いつの間にかベッドなんかなくなっていて。 床に倒れ臥した彼は、きっともう起き上がらない。 指に残った感触が、じわじわとこの心を蝕んで。 心臓が震えた。 自分の呼吸だけがただ、耳に障ってしかたがない。 いとが切れた様に、力が入らない。 膝をついても痛みすら感じない。 (こうして息絶えた君を、私は見たくなんかなかったんだ) どろりと濁ったその瞳。 口の端から飛び出した、唾液に濡れた長い舌。 皮膚は赤黒く変色して、まるで美しくなんかない。 グロテスクこの上ない。 ハッピーエンドなんてほど遠い。 (なにより、殺してしまったということよりもむしろ、別段なにも感じていない自分に私はぞっとしている) ここでは、それがあるべき姿であるかのように、彼は死ぬ。 ここでも、それがあってはならない姿なのに、私は殺した。 彼は殺されたがっていた。 私は殺したくはなかった。 避けられないと言った。 避けられたと私思う。 ここはどこだ ここはうそだ 目を閉じる、 世界が反転して、 現実が逸脱する。 頬が、濡れていた。 「愛してくれと、殺してくれっていうのは似ているけれど」 少なくとも、私は君を殺したくなかったのだと思う。 ×
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