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(花京院復活後に根性で帰ってきたアレッシーと二階堂がすれ違ったようです?)


夕食の時間に合わせて集まる予定だった場所に、五分を過ぎても二階堂は現れなかった。その二階堂が部屋にいない、一番最初にそう気づいたのはジョセフで、ハーミットパープルで念写出来なかったというからには何かに巻き込まれたのかと一同は焦る。今日に限って、彼女はひとり部屋だった。一昨日はポルナレフのいびきに苛まれ、昨日は部屋がなかったためにソファーで寝ることを強いられ、彼女は今回こそ悠々自適な一人部屋を満喫するんだ異論は認めないと言わんばかりの調子であった手前、誰も反論せずにその主張を受け入れた、ことこそ間違いだったかもしれない。花京院は即座にハイエロファントグリーンを這わせ、ホテル中を探して回った。彼はひとりでどこかへ行ってしまう二階堂を探し出すことにも定評がある。それは二階堂のことを一番心配しているのは自分だという自覚もあってのことかもしれない。
そして今回も、花京院はそれほど時間がかからないうちに彼女を見つけ出した。見つけ出したものの、にわかに信じられない事実に、その整った顔の眉間に皺が寄る。

「要……?」

そこは二階堂に宛てられた部屋で、彼女はちょうどベッドの下からはい出してきたところだった。なんでベッドの下に居たんだとかそういうことはさておいて、しかしその様子はどこかおかしい。おかしいというか、花京院が知っている二階堂であることには変わりないのだが。そう、それは、花京院しか知らない二階堂だった。ジョセフのハーミットパープルが"二階堂要"の居場所を念写できなかったのではない、念写した場所で見つけられなかったのだ。

「かきょう…いん?」

自分を見上げていたのは、齢6つの時の二階堂要、そのひとだった。二階堂の影から黒い塊が飛び出して、花京院に突進をかます。そうとうな勢いだったが、かろうじて受け止める。三本の尾にボロぞうきんのような毛並みの塊、それがユノーであることは一目で分かった。

「なんで小さくなってるの…」「花京院がでかくなったんじゃ…」
「えっ」
「えっ」
「ここはどこなんだ?なんだか頭がぼうっとして、思い出せなくて。手に持ってたカードキーの番号の部屋に来てみたけれど、誰もいなかった。そしたら部屋に知らない老人が入ってきたら、とっさに隠れたんだけれど…ユノーも昔の姿に戻ってる」

どうやら彼女には縮んでいるという自覚がないらしい。さらさらと癖のない黒髪が揺れた。そういえば彼女はだぼだぼのセーラー服を引きずるようにしていた。余ったスカートの裾を踏みつけて、すってんと転ぶ、二階堂らしくない。「そんな目で私のことをみるな!」半ば涙目だった。なんだこの可愛い生き物。これなんて誰得展開、いや俺得か。花京院は微妙に頬を赤く染めながらあわてて二階堂を抱き上げた。

「やめろ!下ろせ!自分で歩ける!」
「また転んだらどうするつもりなんだ!」
「そんな配慮無駄だ!」
「無駄じゃないよ、現に転んで涙目だったじゃないか」
「子供扱いはやめろ」
「現に君は子どもだろう」
「クソっ…どうしてこんな目に…!」
「ジョースターさんに訊いてみようか」
「だれだそれは…いや、わかってる、わかってると思うんだけど……うー…」

眉間に皺を寄せて唸る。花京院の襟元を掴んでは胸板にうりうりと頭を押し付けて、どうやら彼女は恥ずかしさやら困惑やらでわけがわからなくなっているようだった。チクショウ可愛すぎる。

「二階堂は見つかったのか?……どうした、顔がにやけてるぞ花京院」
「いや承太郎、それが…」
「アンタが"ジョースターさん"か?」
「……」

承太郎の表情がぴしりと音を起てて固まった。怪訝そうな顔をしている子供に向かって、花京院は相も変わらずでれでれと頬を緩めている。だれだその子供は、と突っ込むまでもない。真っすぐに癖のない鴉の濡れ羽色の髪に日本人らしい黄色人種の肌の色ではあったものの、赤い瞳とその射抜くような視線でこの少女が一体誰なのか、言われずとも分かった。

「彼は承太郎、空条承太郎って言うんだ」
「花京院の…友だちか…!」

とんでもなく衝撃を受けたような顔をしている少女に花京院は首を傾げる。後ろからポルナレフとジョセフ、アブドゥルが此方に向かって歩いてくるのが見えた。

「やれやれだぜ…」

呟いた承太郎の帽子を奪って、黒いボロ雑巾のような狐の影がにやりと目を細めた。



サユリ様 このまま育てなおしてもいいんじゃないかと思うくらいの素直さの誠実主でお送りしました。ご期待に沿えていたでしょうか?花京院デレッデレすぎやろとか思いつつ誠実主の貴重なデレを堪能してほしいと思いますがこのままだとただのロリコンやないか。リクエストありがとうございました!


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