30000!! | ナノ

ダディ、カキョーインと要と初流乃がきたよ!!
階段に向かって、徐倫の元気な声が響く。にこにこと迎えてくれた承太郎の奥方に、三人は小綺麗なテラスに通された。要はいつもより幾分か柔らかい表情になって、かわいらしく包まれた箱を差し出す。中身は春らしく色とりどりの水饅頭と道明寺の桜餅、あられせんべいと金平糖の詰め合わせだ。要は小さく「徐倫が気に入ればいいけど」と付け足した。かわいらしいキャンディじゃないことで空条家のお姫様が機嫌を損ねなければ…と思ったのは、余計な杞憂だったかもしれない。徐倫は目をきらきらさせていたし、母親には受けが良さそうだったので、ひとまず安心する。「これ、冷やさなくっちゃ!」ぱたぱたとスリッパの音を起てながら、彼女は徐倫とキッチンへ駆けていってしまった。

「久しぶりだな」

二階の書斎に籠っていたのだろう、奥方とは入れ替わりに、承太郎がどすどすと音を起てながら降りてきた。典明が至極うれしそうに目を細める。再会はかれこれ半年ぶりくらいになろうか。いや、もうすこし長い間会っていなかったかもしれない。テーブル席に腰掛けていた要は相変わらずの巨体を見上げて、やっぱり初流乃がこれほどまでの身長になったら嫌だなとひそかに思う。「またでかくなったな」と一言、承太郎は初流乃の頭をわしわしと大きな手で撫でた。初流乃はまんざらでもなさそうだった。徐倫が初流乃を呼ぶ声がして、彼はそちらの方へ走っていく。なにやら見せたいものがあったらしい。
微笑ましいそんな子供たちの様子に頬を緩める典明の向かいに座って、承太郎は口を開いた。

「イタリア帰りか?」
「いや、三週間くらい前には戻ってきていたんだ。でも、二人揃っての休みが取れなくてね。君だって同じだろう?」

承太郎が頷く。財団もこき使ってくれるよなあ、花京院は苦笑した。

「承太郎は相変わらずか」
「財団と大学とで一週間が飛ぶように過ぎる…」
「三人揃えたのはほとんど奇跡だな」
「ポルナレフはどうしてる」
「ぼくたちと入れ替わりでイタリア周辺のヨーロッパを調査してるよ」
「イタリアに絞るのか?」
「うーん、まだなんとも言えないかな。可能性があるのがアイスランド、フランス、イタリア、その辺なんだ……それより、そうだ、ジョセフさんは元気?」
「最近物忘れが激しいぜ」
「波紋戦士でも歳には勝てないか」
「いいや、私たちが旅をしたときだって、既にジジイは69だかそんくらいの歳だった。逆に少しでも老けてもらわなきゃ人かどうかすら疑うね」

ぼくたちももう26かあ、典明がしみじみと呟く。あの旅から、もうすぐ10年が経とうとしている。命を賭けて戦ったあの五十日間の記憶は、まだ昨日のことのように鮮明だった。それから要と典明は同じ高校を卒業して大学生になり、渡米していた承太郎が学生結婚して、娘ができて。SPW財団に就職してしばらくして要と典明がようやくくっついて、おまけに齢6つになる子供が突然出来てから、さらにもう四年もたつのか。承太郎は二人の結婚を知らされた当時を思って、遠い目をせざるを得なかった。あのときのジョセフと言ったら、まったく見ていられなかった。

「そういえば、二人に言ってなかったことがあるぜ」
「?」
「ダディ!要!カキョーイン!」

見てみて!!テラスに駆け込んできた徐倫に続いて、初流乃が転びやしないかと心配そうな顔をしながらついてきた。徐倫の腕の中にいたのはぐったりとした見覚えのあるボストン・テリアだった。

「イギー…?」
「そう!イギーと二人はお友達なんでしょ?」

ずいぶんと老け込んだものだと半ば感心しながら、要はおとなしく徐倫の腕からぶら下がっていた彼の頭を撫でた。チューインガムを持っていないことを少し残念に思う。コーヒー味のチューインガム貪り食うだのなんだの、まったく不摂生な食生活を送っていたこの犬は案外しぶといらしい。ユノーがにやりと笑う。イギーは不機嫌そうに唸った。

「どうしてイギーがここに?」
「アブドゥルが連れてきたんだ、一週間ほど面倒を見てほしいと……ちょうど徐倫が犬が欲しいとうるさかったからな」

イギーは「イギ…ッ」承太郎を睨むようにして、反抗的なうなり声を上げる。「相変わらず元気そうで何よりだよ」花京院が笑った。

「徐倫、忘れてますよ」

初流乃がおやつとティーポットを乗せたトレーをもってやってきた。金平糖の瓶が端に乗っている。徐倫が両手を上げて喜び、嬉しそうに礼を言った。(地面に落とされたイギーは一度だけ吠えたが、徐倫にはまったく聞こえていない様子だった。)

「これ、とってもキュート!だって小さい星がいっぱい詰まってるみたい。それにね、これ、初流乃が教えてくれたの。とっても甘いんだって!」

要の膝の上に乗って、徐倫は瓶の蓋を捻る。ポコンと小さな音を起てて、蓋が外れた。いそいそと要の掌の上に転がして、徐倫は目をきらきらさせていた。
徐倫に倣って、淡い緑色の星のかけらを一粒口に運ぶ。口の中に甘い味が広がって、要は頬を綻ばせて、徐倫を撫でる。すこしうらやましそうな顔をしていた初流乃を抱き上げて、典明が微笑んだ。承太郎とイギーが、なんともいえない表情で睨み合っていた。


るるこ様 エイプリルフール設定でつづき、ということで、リクエストに沿えていたでしょうか…!徐倫の中では要≧ジョルノ≧花京院>承太郎くらいの序列だとおいしいとか思ってます。家族パロ美味しいですね! リクエストありがとうございました!


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