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「徐倫と初流乃、大水槽の前にいるみたいだ」

ハイエロファントグリーンを辿ってすぐにたどり着く距離、そこまで離れてもいないところに、どうやらユノーが初流乃を通じて誘導してくれたようだ。典明の言葉に、承太郎は安堵の息を吐く。

「なんだ、君らしくない」

要が狐の様に目を細めては、すこしにやりとしてみせたので、承太郎はわざとらしく舌打ちを一つ零してみせた。

「そういう素直な所をだ、承太郎。君はもっと人に見せるべきだと僕は思う」
「そうすれば君も人間なんだってことを、財団の連中だって理解することだろうよ」
「余計なお世話というやつだ」

帽子を被りなおした所で、三人は階段を降り終えては、人のごった返した踊り場にたどり着く。目の前に開けた大水槽。青く澄み渡った世界の中で、要の狐が魚を追いかけ回して遊んでいたのはすぐに目についた。

「要、ユノーがあんなんだけど、息苦しくないの?」
「どういうつもりなんだか知らないが、私にはなんともないから問題ないんじゃあないの」

要はどうでもいいと言わんばかりに首を横に振ってみせた。「ほら、あそこだ」ハイエロファントグリーンがフロアの端、水槽のたもとを示す。もう十二分に見覚えのある二つの頭が、懸命に魚の影を追っているのが目についた。先にきづいたのは初流乃で、典明や要と目が合うと嬉しそうに「パードレ!マードレ!」すぐに二人のもとへ駆け寄ってきた、徐倫の手を引くのも忘れずに。徐倫はすこしばつの悪そうな顔をして、もじもじと承太郎の前に歩みを進める。

「ごめんなさい、わたし……」

はやくイルカさん、みたくて。徐倫がそう言い終わる前に、承太郎の掌が彼女の頭に覆い被さる。ぐりぐりと撫で付けては、「無事でよかった」そう小さく呟いては、口元に、微笑が浮かんでいる。

「ダディ」
「来い、徐倫」

ぐずぐずと鼻をすすり上げたお姫様を、承太郎はそっと抱き上げた。その首元にしがみついて、徐倫は静かに嗚咽を零す。「ちゃんと父親の顔をしてるじゃあないか」要が典明の耳元にそっと耳打ちした。典明は相槌をうつと、いつもよりも三割増ほど柔く微笑みつつ言った。「邪魔しちゃいけないな」三人はそそくさとその場を離れる。「そういえば」初流乃が思い出したように言った。

「マンタの餌やりの時間、過ぎちゃった?」
「あっ」

確か午後15時からのハズだった、と腕時計を見やったとき、既に時刻は15時半を指していて。「しかたありませんね……徐倫には言わないでください」初流乃は肩をすくめて言った。

「お前は聞き分けがよすぎるから心配になる」
「大丈夫だよマードレ。そうだ、水中トンネルの方へ行こう。ユノーがね、きっとマンタをつれてきてくれる」

二人の手を引きながら水中トンネルの中までやってきて、初流乃は嬉しそうに水槽のすぐ目と鼻の先のところにマンタがやってきたときのことを語ってみせる。あの追い込み漁のことか。要が顔を上げると、ユノーが水槽の中の生物に触れ回っている様が見えた。入れ替えているのはマンタのエサではなかろうか、と思って、なるほど確かに、打算的に誘導しているらしい。遠くからこちらにむかってやってくる二つの巨体、青い世界にぽっかりと浮かんだそれは、ひれをまるで翼のように優雅に動かして、世界を隔てるアクリルをなめるようにして。二匹のマンタは三人に白い腹を見せながら、ぐるぐると交互に宙返りしてみせる。降り注ぐ証明を浴びて白が輝き、また黒い背面が際立つ。ずいぶんと迫力に満ちたその姿に、おおお、と後ろの方で歓声があがるのに合わせて、親子三人もまったく同じタイミングで感嘆の声を漏らしていた。最後にちらりと初流乃の方を見ただろうか、巨体を翻してまた、水槽の奥へ行ってしまった。
要の影から、するりとユノーが戻ってきた。その毛並みはいつもどおりで、濡れている様子は微塵もない。初流乃が礼を述べながら頭を撫でると、誇らしげに胸を張ってみせた。ユノーの視線の先に目を向けると、空条親子が追いついていた。徐倫は既に泣き止んで、少し恥ずかしそうに承太郎にしがみついている。承太郎の方もまんざらでもなさそうで、初流乃はそれが羨ましくなったのか、要の手をぎゅっと握った。

「花京院、四時からイルカのショーがはじまるぜ」
「じゃあそろそろ、行こうか」

初流乃の頭を典明が撫ぜる。帰りに売店でマンタのぬいぐるみでも買ってやろうと思って、要は自分よりも一回り小さい彼の手を握り返した。要と典明は目を合わせて、少し笑ってみせた。



四名の匿名様方 おまかせ、というリクエストでしたので、好き勝手やらせていただきました!エイプリル設定ということでしたので、親子で遠足に行ってもらいました。いかがでしたでしょうか。初流乃がマンタ好きというのは完全に朽碌の捏造です。なぜなら朽碌が無類のマンタ好きであるからでした(コラ) それからせっかくなので今回は空条親子の親子仲にスポット当ててみました。オラ親子かわいいですね!
最後に、完結まで長らくお待たせして申し訳ありませんでした。リクエストありがとうございました!



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