30000!! | ナノ

ルートと手順は決まっている。家を出て煉瓦の敷き詰められた道に出たなら、まず最初にジョウロでもって、庭先にある花壇の様子を確認。バラ、コスモス、チューリップの三種をメインに、それぞれ規則的に植えられている。どうやら交配の経過は順調、枯れている花などあるわけがないけれど、ひとつひとつ、水をやって回る。次にシャベルを手に取る。どこかに隠れた化石を採掘するためだ。今日は探す間もなく見つかってしまったので、これをリサイクルショップに売却。ついでにフリマにだしてあったものが売れていたのでまとまった金額を受け取った。これにて日課が終了。確か今日のイベントは何もないはずなので、釣りがてら住民のひとりひとりに挨拶をしてまわってみる。途中で今日も今日とて作業は順調。釣りでもするかと釣り竿を携えて走った川辺に浮かぶ巨大な魚影。これはもしや、と、釣り竿を構える。ポイントは上々。ぴ、と、魚影がウキをつつく。
二度目、よし、くる。
と、要がAボタンに親指を置いた、その時。右肩口に違和感を感じて、要の動きはすべからく停止する。ぴちゃん、巨大な魚影は無情にも消え去った。

「……そこに立つの、やめろ」
「ここはこのDIOの屋敷だ、どこに立とうと私の勝手であろう」

苛立を最大限抑えた声を喉の奥から絞り出した要の首に、生暖かい吐息がかかる。「ピラルクが逃げた」「どうせタイヤだ、構わん」眉間に深い皺が寄った。

「私の10000ベルを返せ」

腰に回った手を叩き落としながら、恨みがましいような目で首だけDIOを振り返る。似つかわしくない、やわらかい笑顔を浮かべたこの男におもわず頬が痙攣しそうになったのを、唇を噛む事で抑えた。早々に抵抗を諦めて、視線を携帯ゲーム機に戻したわけだが、DIOは執拗に要の腰に腕を回そうとして要の肘とDIOの手の攻防が止まない。思わずゲーム機を握る拳に力が籠る。結局妥協したのか、要の頭の上に顎を載せることで落ち着いたようだ。DIOが画面の中を覗き込むと、彼女は犬にコーヒーをふるまっていた。ブルーマウンテンをブラックか。この犬、趣味は悪くないらしい。

「頭、邪魔なんだけど」
「角度は変えていない」
「不自由…っておい、触るな」
「上手そうな首筋だ」
「灰にするぞ」

泡立った背筋をなんとか押さえつけて、要は公共事業を立ち上げてくれと直訴するべく村長あてに手紙を書くことにする。タッチペンで打ち込む作業は何度やっても慣れないというか、あまり好きではない。DIOの腕が動きを遮っているため、輪にかけてやり辛い。デレ期の父親とはこんなにも面倒なものだったかと思ったが、隣のジョースター家ほどではないか、と親友を思って考えることを放棄した。あそこの大黒柱、ジョナサン・ジョースター氏から溢れ出る暑苦しいまでの愛を受け止めることのできる親友は素晴らしいと思う。ああ見えて、彼が照れ屋なだけかもしれない。

「……昨日はどこに行っていた」
「父上様は仕事に行っていたかと思うんですが」
「見覚えのないゲームソフトが居間に転がっていた」
「中古で安かったもんで」

郵便局に投函して、ついでにATMから自分の口座に溜まった分のお金を振り込んだ。
住民にかくれんぼを呼びかけられたのを断って、適当な木をゆらして回る。落ちてきた蜂の巣にとっさに持ち出した虫取り網、逃げ回りながらふりまわす。と、再び要の指が止まった。あえなくハチの群れに捉えられて、顔がボコボコにふくれあがっている。あーあ、とため息をつくよりも早く、DIOの鳩尾に要の肘鉄がめり込んでいた。しかしどういうわけかこの男、めり込んだままでも微動だにしない。チクショウこの吸血鬼が、と眉間に皺が寄った。

「うまそうなうなじだ」
「ちょ、耳元でささやくのやめてもらえません」
「香水でも変えたか?要よ」
「特にはなにも。つか嗅ぐな、灰にするぞ」
「……花京院か」
「あ、カブ価が上がってら」
「おい、答えろ要。今日のデートはどこに行くんだ」
「おい待て、どうしてアンタが知ってる」

今日はここまでにしますか?、の表示にはい、を迷うことなく選択して、要は少々乱暴に二つ折りのゲーム機を閉じた。父親の手に握られていたのは、まぎれもなく要のスマートフォンで。

「…このDIOが生まれた時代にはスマートフォンなど無かった。おい、花京院に『アンタのこと嫌いなの』と打つにはどうしたらいい」
「その減らず口、最高に灰にしてやろうか」



匿名様 というわけでDIOさんに一方的に構われる話しでした!ほとんどと○森の話で埋まってますね!すみません!リクエストありがとうございました!



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