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 突如として名前の目の前に大きなカボチャが現れた。

「こんにちは、苗字先輩。トリックアンドトリート」

 カボチャ、否、カボチャの被り物をした何者かは妙に柔らかな物腰で時候の挨拶を口にする。

「え、何? 誰? あ、この声辰己くん?」
「いえ、ルイ・オ・ランタンです」

 いや、それはもう正体を言ったも同然ではないのだろうか。後輩(推定)を見つめて名前は今日という日が何なのかを思い出す。
ハロウィン、魑魅魍魎が跋扈する現代の百鬼夜行。発祥は西洋で、もともとは収穫祝いだとか悪霊祓いだとかいう起源なのだが日本においてはただのお祭り騒ぎという側面が強い。この後輩(推定)もそれに乗ったということだろうか。

「お菓子持ってたかな」

 とりあえず先輩として後輩(推定)のかわいいおふざけに付き合うのもやぶさかではないとポケットを探っていた名前であったが、後輩(推定)は手にしていたステッキを高く掲げる。

「先輩。トリック“アンド”トリートです。お菓子をくれてもイタズラしますから」

 にっこり、とカボチャの奥の顔が笑った気がした。後輩(推定)の持つステッキの先からファンシーなんだかポップなんだかダークだか分からない色合いの、要するにハロウィンカラーの光が飛び出し名前に直撃する。

「なになになになに!?」

 眩しさに思わず腕で顔を覆う。
 そして光が消えたのを薄目を開けて確認してから腕を下した。

「いったい何……」

 周囲を見るが特に変わったことはなく目の前にはカボチャの後輩(推定)。ならばと自分を見下ろす。

「いや待って待って。これ、何」

 さっきまで制服を着ていたはずだ。なのに、今身に着けているのはやけにひらひらした赤とオレンジを基調とした衣装。和服に似たデザインで袖にはたっぷりの襞、膝までは普通にスマートなデザインなのに裾がボリュームたっぷりに大きく広がっている。マーメイドドレスに似てなくもない。それと何故か頭がずっしりとした重みを感じている。

「よくお似合いですよ苗字先輩」
「うん、ありがとう。……じゃなくて!」

 いったいぜんたいこれは何なのか。とんだおふざけだ。

「この衣装なんなの!?」
「ハロウィンの仮装です」
「いや、うん、それは何となく分かってたんだけど。なんで私が?」
「ユータ・オ・ランタンが変身させたのが3人、俺が2人。折角なので人数を揃えたかったんです」
「へえ……?」

 ますます意味が分からない。というかユータ・オ・ランタンとは誰だ。ああ、星谷か、と名前は混乱しつつもどこか冷静に納得した。そしてさらに疑問もわく。

「待って、じゃああと5人は?」
「華桜会の先輩方です」
「きみ、その思い切りの良さすごいね!?」

 前々から思ってはいたがこの胆力は何だ。これがスターオブスターのリーダーの底力だとでも言うのか。

「おーい、辰……ルイ・オ・ランターン!」

 遠くからこれまた聞き覚えのある声がする。その方を見ればやっぱりというべきかカボチャの被り物をした何者かが駆け寄ってくる。しかもその後ろには見覚えのありすぎる仮装した5人。

「やあ、ユータ・オ・ランタン。こっちは上手くいったよ」
「え、苗字先輩!?」
「どうも」

 もう名前は半ば投げやりに言葉を返す。何なんだろうこれは。ハロウィンの見せる幻覚か?
 そして見覚えのありすぎる5人も名前の姿に気が付く。

「あれ、苗字ちゃんじゃんね」

 シュガースカルが骨を歪ませて笑う。

「それ何の仮装?」

 キョンシーが顔の札を揺らしながら首を傾げる。

「人魚か?」

 デュラハンの分離した首から上が尋ねる。

「いや、人魚っつーか……」

 ファントムが仮面で隠れていない方の目で苗字をじろじろ見まわす。

「金魚だな」

 鬼が明快に言い切った。

 金魚。

「金魚……」

 名前は改めて自分の衣装を見る。ひらひらした袖や裾は確かにヒレのようで、色も赤やオレンジが中心で鱗のような模様に見えなくもない。そしてずっしりとした頭の重み。名前はそっとあたまに手をやる。なんだが丸っこくて柔らかいそれを外して顔の前にまで下ろすと目が合った。ずんぐりとした頭。金と黒のまるい目。突き出たような唇。

「金魚の幽霊です」

 爽やかな後輩(推定)の声が聞こえた。

「いや、なんだよそのマイナーなチョイス」

 ファントム、もとい千秋が笑いながら名前を見た。

「最初は人魚にしようと思ったんですけどハロウィンなのでもう少し妖怪寄りの方がいいかな、と」
「でもずんぐりしてて可愛いな」

 四季のそれはフォローなのだろうか。

「ランチュウだね」

 春日野はやけに落ち着いて品種まで教えてくれる。だからこんなに全体が丸っこいのか。

「やっぱ和風もいいじゃん!ね、亮ちん?」

 入夏が冬沢に同意を求める。

「執念深いお前にぴったりだな」

 全く褒められた気がしないんですけど?

「じゃあ写真とりましょうか」

 本当にこの後輩(推定)の精神力は恐ろしい。あれよあれよという間に6人並ばされた。
 いや、本当に何なんだこれは。でも、と名前は周りを見る。何だかんだ5人も笑っているし今日は無礼講ということで全て大目に見ようではないか。