※高校生設定
 
 

私に親はいない。兄弟もいない。
だが、それは昔の話。今の私には親と呼べる存在がいるし兄弟と同じくらい大切な仲間がいる。私がお日さま園に来てから10年が経とうとしていた。私は今、幸せだ。
 
「どうしたの?ぼーっとして」
 
「お日さま園に来たときのことを思い出したの」
 
ソファーに座っている私の隣に私の最愛の人、ヒロトが腰を下ろした。
 
「10年前のあの日、俺達は出会った。父さんには感謝しなくちゃね」
 
ヒロトはそう言いながら私の肩を引き寄せた。そう、私がもしも父さんに出会わなければヒロトに会うこともなかっただろうし今も孤独に生きていたと思う。本当に父さんには感謝してもしきれない。
 
 
* * *
 
 
私は車の中にいた。前の助手席に座っているおじさんは私にこう言った。今日から私が君の父さんだよ、と。わけがわからない。突然家に知らない大人達が来たかと思うと私はその大人達に車に乗せられ今に至る。抵抗はしなかった。私には家族と呼べる人間はいなかったので寂しさなんて微塵もなかったしなにより父さんと名乗ったこのおじさんなら私を愛してくれそうだったので着いてきた。誰でもよかった。私は、私を愛してくれる人を探していたから。
 
どれくらい経っただろうか。車は止まり私は父さんに手を引かれお日さま園と刻まれた門をくぐった。
父さんは私をみんなに紹介したいのだと言った。私は私のほかにも子供がいるのかと少し安堵した。
みんなのいる部屋へと連れて行かれた私は驚いた。部屋にいた子供がみんな父さん父さんと抱きついたり甘えたりしていた。やっぱりこの人は良い人だ、と私は確信した。
軽く自己紹介を済ませた私は、よし噛まずに言えた、なんて内心思った。父さんは私に、みんな良い子だからすぐに仲良くなれるよ、と言った。すると父さんは部屋を見渡し一人の男の子を呼んだ。
 
「ヒロト、こっちに来なさい」
 
ヒロトと呼ばれた男の子は父さんと私の目の前まで来ると笑顔で私にこう言った。
 
「基山ヒロトです。今日からよろしくね」
 
私は胸がどくりと高鳴ったのがわかった。ヒロトは手を差し出してきた。私はそれが握手を求めるものなのだと気づき汗ばんだ手のひらを急いでTシャツで拭いてヒロトの手を握った。
 
「…よろしく」
 
私から出たのは消えてしまいそうな声だった。照れて目を逸らしてしまう。あぁ、私ってばなんて失礼なんだ。頭上では父さんがヒロトに私の世話を頼むだなんだ言っているけれどほとんど私には聞こえていない状態で、ただ握られた手を見つめることしかできなかった。
私はこの時、基山ヒロトという少年に恋をしたのだ。

中学に上がった頃、私は意を決してヒロトに告白した。結果はOK。ダメ元で告白したつもりだったのに結果はOKなんて信じられなくて、同時にとても嬉しくてその晩は一睡もできなかった。
 
 
* * *
 
 
私は今、とても幸せだ。
なんたって愛する人とこんなにも充実した日々を送っているから。
 
「渉」
 
「なに?」
 
「俺は初めて渉に会った時から渉のことが好きだったよ。初めて握手したとき、少しほっぺたを赤くして目を逸らした渉はすごく可愛かった。それに渉に告白された時は本当に嬉しかったよ。」

よくそんな恥ずかしいことスラスラ言えるな、なんて感心しながらも嬉しいなんて思っている自分がいた。
 
「こんな俺を選んでくれてありがとう」
 
ヒロトはそう言うと私を抱きしめて触れるだけのキスをした。
 
「こちらこそ、ありがとう」
 
私は恥ずかしくなって目を逸らした。
初めて会ったあの日のように。
 
 



「高校卒業したら2人暮らし始めようか」
ヒロトのその言葉に私は頬を赤くして頷いた。
 
 
 



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