「はぁ…」
 
溜め息をつきパタンと下駄箱のロッカーを閉める。
 
結局、今日も渡せなかった。
私の鞄の奥底には一週間ほど前から一通の手紙が眠っている。所謂ラブレターだ。予定通りことが進んでいればラブレターはとっくに私の思い人、風丸くんの手元にあるはずなのに未だ私の手元にあるそれは、私がいかにヘタレなのかを表しているに違いない。
風丸くんとは同じクラスだけど彼は人気者だから休み時間に呼び出すことも出来ないし、しかも授業が終わるとさっさと部活に行ってしまうから渡す機会がない、なんて脳内で言い訳を並べるのは今日で何回目だろうか。明日こそ渡そうと私は神に誓った。同時に、明日渡せなかったらもう諦めようとも誓った。
 
今日は寒い。
頬を掠めた冷たい風に私は冬の訪れを実感した。昇降口から校門へ向かうまではグラウンドの横を通らなければならない。グラウンドでは運動部が練習をしている。その中には勿論風丸くんもいるわけで、私は風丸くんのいるサッカー部の練習を見て帰るのが日課になっていた。
グラウンドの横の木の下のベンチ。そこが私の特等席だ。
 
「風丸くんかっこいいな…」
 
思わず口に出してしまったことに気づき私は自分の顔が赤くなったことがわかったので手で頬を覆った。
グラウンドで必死でボールを追いかける風丸くんはとても輝いていた。私は彼が陸上部にいたころから見ているけれどサッカー部に入部してからのほうが彼らしさが出ているというか、活き活きしているように見えた。最も、彼は私がこんな感情を抱いていることを微塵も知らないだろう。その上、私が1年の頃からこうしてこっそり練習を見ているのさえ知らないと思う。正直話したことも2、3回しかないし、と考えているとやっぱりラブレターなんて渡さないでおこうかな、なんて考えが脳内をよぎった。
どのくらい時間が経っただろうか。気が付けば日は沈みかけていて円堂くんの「解散」という声が聞こえたのでサッカー部も練習は終わりなのだろう。帰ろうと思いベンチから立ち上がると思いもよらない人物がこちらに向かってきた。
 
「相馬!」
 
「かっ風丸くん!わ、私になにか用かな?」
 
突然の風丸くんの登場に驚き私はどもってしまった。あぁ恥ずかしい。第一声を発した後にお疲れ様とか言えばよかったな、と少し後悔した。
 
「用っていうか、いつも練習見てただろ?サッカー好きなのか?」

あぁ、気づかれてたんだ。何故だか恥ずかしくなって言葉がうまく出てこなかった。
 
「あ、あぁ、サッカー?うん、まぁ、好きかな」
 
私の言葉を聞いた風丸くんは微笑むと、やっぱり!と言葉を紡いだ。そんな笑顔を向けられたら倒れそうななるじゃないか。
 
「明日の放課後練習試合するから暇なら見に来いよ」
 
風丸くんの言葉が私の心に反響して、親しくもない私にそんなこと言ってくれるなんてやっぱり風丸くんは優しいなぁなんて内心思った。
 
「うん、行く!絶対行く!」
 
「そうか、ありがとう。じゃあ俺、部室戻るから。また明日」
 
風丸くんはそう言って微笑むと部室へ戻っていった。風丸くんの言葉や仕草の全てがかっこいい、なんて思った私はかなり重症だ。
私は先程の夢のような時間の余韻に浸りながら家路についた。
また明日。風丸くんに言われたその言葉を思い出し思わず頬が緩んだ。明日、朝一番にラブレターを渡そう。そう決めた。
 
日の沈みかけた空は薄暗く、頬を掠めた風は少しくすぐったかった。





「風丸!話せてよかったな!」
円堂が満面の笑みでそう言いながら俺の背中を盛大に叩いた。痛い。
 
一目惚れなんて自分らしくないと思う。だが相馬と話した時、鼓動が確かに速くなって体が熱くなったのは俺が彼女に惚れている印。
 
さて、この思いをいつ彼女に伝えようか。



 



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