遅い。
練習は午前中だけだとマルコから聞いていたのに窓の外を見ればとっくに日は沈み空には狐色に輝く大きな丸が浮かんでいた。
まぁ検討はついた。きっと今日も私の知らない女の子とデートでもしてるんだろう。
 
ガチャリ。
玄関の扉が開く音が聞こえたからリビングのソファーに座りながら「おかえり」と言えば案の定フィディオは驚いた様子で口を開いた。
 
「来てたのか」
 
「来ちゃ駄目だった?」

いつでも来ていいよと言って合い鍵を渡してきたのはお前だろ。  

「そうじゃなくて来る時は事前に言ってってこと」
 
フィディオは肩にかけていたスポーツバックをソファーに放り投げて冷蔵庫から缶コーラを取り出した。
 
「どうぞ」
 
「ありがとう」
 
缶コーラをぎゅっと握るとひんやりしていて手が痛くなった。
 
「いつ来たの?」
 
「お昼すぎ」 
私がそう答えるとフィディオは「ごめん」と少し俯きながら言った。

「別に私が勝手に来ただけだし謝らなくていい」
 
それに、あんたに待たされるのは慣れてる。
嫌味ったらしく付け加えた。
 
「ほんと、ごめん」

「…本当に悪いと思ってるなら、」
 
その先を言うのはやめた。
"女遊びはやめろ"なんて言ったってどうせ無意味だ。
 
「いや、やっぱいいや。それより今日は話があって来たの」
 
やっとソファーに腰を下ろしたフィディオは不安そうに私を見つめた。
 
「別れ話なら聞かないよ」
 
「それは困るわ。私は別れ話をしに来たのに」
 
まさか本当に別れ話だとは思っていなかったのかフィディオは目を見開き私に問いかけた。
 
「本気なのか?」
 
「冗談でこんなこと言わない。フィディオといても幸せになれない。そう判断しただけ」
 
溜め息混じりにそう言うとフィディオはまた俯いて拳を握りしめた。
 
「だから、別れよう」
 
「嫌だって言ったら?」
 
「聞こえないフリをする、かな」
 
"私たちはもう終わりなの。"
それだけ告げて私は逃げるように家を出た。
 
「あいつ、なんで泣くのよ…」
 
フィディオの泣き顔を見ただけで意志が揺らぎそうになるなんて本当に私は馬鹿だ。

『待って、渉!』

家を出るときに私を呼んだフィディオの声が脳内に反響した。

 
 
 
「もしもし、ジャンルカ?昨日の話だけど…
 
私、ジャンルカと付き合うよ」
 
 
結局私もフィディオも同じだった。
 




さようなら、白い流星。



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