「寒い」 時刻は午後10時過ぎ。私は友人宅から自宅へと帰宅するべく暗闇の道を寒さに耐えながら歩いていた。暗くならないうちに帰ってればよかったな、なんて思っても時既に遅し。この辺りは人通りも少なく明かりは街灯のみ。静寂を不気味に思いながら私は歩を進めた。 「ねぇ、君」 突然背後から声をかけられ驚きつつも振り返ると、そこにはいかにもガラの悪そうな3人組の男。そして気色の悪い笑みを浮かべてこちらに近づいてきた。 「なんですか?」 警戒しながら問いかけるとリーダー格らしい男が私の前まで来て私の肩に腕を回してきた。 「な、なにするんですか。離して下さい」 「えー、つれないなぁ。一緒に遊ぼうよー」 こんな奴らと遊ぶなんて絶対に御免だ。私は男から逃れようとしたがもう一人の男に腕を強く掴まれて逃げる隙を失ってしまった。 「痛っ、離して!」 私がなんとか逃れようと足掻いていると私の腕を掴んでいた男が突然倒れた。「え、なに」 急に倒れた男に驚いていると男の横にサッカーボールが転がっているのが目に入った。 「男3人で女の子を襲うなんて、クククッ。卑怯な奴らですね」 「ご、五条君!?」 暗闇から現れたのはクラスメイトの五条君だった。そうか、五条君が男に向かってボールを蹴ったから男は倒れたんだ。流石超次元サッカーをしているだけのことはある。五条君のポジションがDFであるとは言え、帝国サッカー部の一員である五条君のキック力は一般人のそれとは比べものにならないだろう。 「なんだてめぇ?」 突然の五条君の登場と仲間がやられたことに私の肩に腕を回していた男とその仲間の男は動揺しながらも五条君に詰め寄っていった。 「クククッ、威勢だけはいいですね」 五条君の言葉についに頭に血が上ったのか男は五条君に向かって拳を振り上げた。しかし男よりも五条君の方が少し早く足元のサッカーボールを蹴り上げていた。 「ぐあっ」 男は間抜けな声を出しながら10メートルは吹っ飛んだであろう。そのまま気を失ったようだ。もう一人の男は勝ち目がないと思ったのか急いで逃げていった。 「五条君、助けてくれてありがとう」 「当然のことをしたまでです。ヒッヒッヒッ」 五条君はいつものニヒルな笑みを浮かべてそう答えた。見慣れた笑顔。だけど今日の私にはその笑顔がすごくかっこよく見えた。もしかしたら五条君は佐久間君や源田君よりもかっこいいのかもしれない。五条君は地面に転がったサッカーボールをスポーツバックにしまい口を開いた。 「送りますよ」 「え、いいよ!これ以上五条君に迷惑かけるわけにいかないし」 五条君は短い溜め息をついて「また襲われたらどうするんですか」と言った。私を心配してくれる五条君、なんて優しい人なんだろう。ギャップ萌えというやつだろうか。冷たいと思っていた五条君が実はすごく優しい人だと知り胸がうるさくなった。 「じゃあ、お言葉に甘えて」 すこし俯きながらそう言うと五条君は私の頭をぽんぽんと撫でてすたすたと先に行ってしまった。 「あ!五条君、私の家そっちじゃないよ!」 私が慌ててそう言うと五条君は「ヒヒヒッ、わざとですよ」と誤魔化すように言った。五条君、可愛い!
もしかしたら私は、五条君に恋をしてしまったのかもしれません。