※劇場版小説ネタバレ有り
「調子はどう?」 「こんな怪我どうってことないよ」 「そう」 病室のベッドの上で相変わらずミストレは指で髪を弄んでいた。鼻の骨を折られてどうってことないなんて一体ミストレの中の怪我の基準はどうなっているのだろう。 「鼻の骨が折れてもミストレはかっこいいね」 「知ってるよ」 ミストレは即答し、いつも取り巻きの女の子に向けるような安っぽい笑顔を私に向けた。 「その笑顔、かっこいいけど私は好きじゃないな」 「へぇ、そうなんだ。どうして?」 「なんか、偽物臭いから」 私がそう言うとミストレは少し驚いた顔をした後にクスクスと笑い声を漏らした。 「君は鋭いね。正解だよ」 正解、とは多分笑顔が偽物臭いと言うことを指しているのだろう。 「オレはさ、取り巻きの女の子たちのことは好きだよ。だけど誰もオレが愛想笑いを向けてることに気付かないんだ。結局は表面上のオレに騙されてるんだよ、皆」ミストレは黙っている私に「君もそのうちの一人だと思ってたよ」と付け加えた。仮にも私はミストレの彼女だ。そんな風に思われていたなんて心外だ。 「ミストレは皆に愛されたいからそうやって愛想笑いするの?」 「ははは、君は嫌なことを聞いてくるね」 思わず思ったことを口にしてしまった私はしまったと思い「ごめん」と呟いた。 「謝らなくていいよ。事実だからね」 そう言うとミストレは私の頭を撫でてきた。こういう所が女慣れしていると感じる所なのかもしれない。 「だけど、君の前でならありのままの自分でいられそうだよ」 「なら、さっきみたいな安っぽい笑顔を向けるのはやめてね」 「わかったよ」 ミストレはかけ布団を捲りベッドをぽんぽんと叩いた。どうやら入れと言っているらしい。私は少し躊躇ったがミストレが私の体を引き寄せたので大人しくベッドにお邪魔することにした。 「渉がオレの彼女で良かった」 そう言ったミストレの顔には普段の愛想笑いではなく私だけに見せるあどけない笑顔があった。 「今の笑顔の方がかっこいいよ」 いつもなら当たり前、という顔をするくせに私の言葉にミストレは頬を赤くし「ありがとう」と言った。 誰よりもナルシストだけれど実は照れ屋で不器用。それが私の恋人、ミストレーネ・カルスである。全部ひっくるめて、あなたが好き。