午前3時過ぎ。
真夜中の静寂に似つかわしくない賑やかな着信音が部屋に響いた。
こんな夜中に電話をかけてくる非常識な奴はあいつしかいない。
 
布団からもぞもぞと腕を出し携帯を開くと画面に映し出された"フィディオ・アルデナ"の文字に、やっぱり、と溜め息を漏らす。無視しようかと思ったが一向に止む気配のない着信音に少しイラつき渋々通話ボタンを押した。
 
「もしもし」
 
「やあ!こんばんは」
 
聞こえてきたのはなんとも呑気なフィディオの声。
 
「あんた今、日本が何時かわかってんの?」
 
「こっちが7時だから…3時くらい?」
 
「正解。こっちは夜中なんで私は寝ます。おやすみ」
 
「えー、ちょっと話そうよー」
 
なんとも甘ったるい声でそう言われ私の意思がぐらついた。私はフィディオにねだられたり甘えられたりするとすぐに流されてしまう性格で現に今だってそうだ。
そしてフィディオのとどめの「俺と話すのが嫌なの?」という言葉により私の睡眠時間が削られることが確定した。
 
「ちょっとだけね、ちょっとだけ」
 
私は念を押すようにそう言った。
 
「で、用件は?」
 
「用件?そんなものないよ!ただ君と話がしたかっただけ」
 
「あっそ」
 
予想通りのフィディオの言葉に私は素っ気なく返事するしかできなかった。
 
「あのさー、渉」
 
「なに?」
 
「好きだよ」
 
「うん、私も好きだけど」

「…!」
 
フィディオの奴、多分驚いているんだろう。私は普段好きだなんて言わないから。けど今日はなんとなく、ただなんとなく素直になってみた。
それから私たちはまるで会えない時間を補うかのように話し込んだ。私の「ちょっとだけ」という言葉はどこへ行ったのやら。

「渉、今度イタリアにおいでよ」
 
「うん。行きたいな」
 
気が付けば時計の針は4時を過ぎていて私はフィディオにそろそろ寝ると告げた。
 
「今日は楽しかったよ!また電話するね」
 
「電話くれるのは嬉しいけど夜中はやめてね」
 
フィディオに「おやすみ」と言って私は通話終了ボタンを押した。
いつもの起床時間まであと3時間ほど。私はもう一眠りしようと余韻の残る中瞼を下ろした。
 
 
数日後フィディオから手紙が届いた。
中には手紙とイタリア行きの片道切符。
 
手紙に書かれた下手くそな文字を見て思わず吹き出しながらも私は迷わずフィディオに電話をかけた。
 
 

 
 
"イタリアにおいで。
おれといっしょにくらそう!"

 
只今の日本時刻、午前11時。
 
 



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