この話の続き。



ヒロトくんから衝撃の告白を受けて3年が経った今でも私たちは"恋人"という関係を保ち続けていた。
ヒロトくんは中学を卒業し現在はサッカー留学も兼ねて私と日本から遠く離れたこの地で生活している。私は付き合いたての頃、ヒロトの代わりとしてヒロトくんを見ていた。だが共に生活していく中でヒロトくんの良いところも悪いところも私は全て見てきたつもりだ。たった3年、されど3年。私が基山ヒロトという人間をヒロトの代わりではなく一人の異性として意識するのに3年という時間は十分であった。
 

「ただいま」
 
練習を終えてヒロトくんが帰ってきた。私がおかえりと言って玄関まで行くとヒロトくんはいつものように私を抱きしめる。一緒に生活してわかったことがある。それはヒロトくんが意外と甘えん坊だということ。特に練習後の疲れている時のヒロトくんの甘えっぷりは凄いもので普段のクールな彼からは想像もできない。
 
一向に離してくれそうにないヒロトくんをいつもの如く無理やり剥がすとヒロトくんは相変わらず恥ずかしがり屋ですね、と言って私の手を引きリビングへ向かった。
 
「ご飯もうできてるけど?先にお風呂入る?」
 
「お腹減ってるから先にご飯食べます」
 
私はそう、と言ってからキッチンへ向かった。
私がキッチンで支度をしているとヒロトくんが背後からまとわりついてきて少し邪魔だったがいつものことなので放置して黙々と食事の支度をしているとヒロトくんがいきなり私のお腹に腕を回してきたもんだから流石にこれでは私も作業ができない。
 
「ヒロトくん、ちょっと離れて」
 
「どうしてですか?」
 
「いや、ほら、こんなにがっちり抱きしめられたら作業できないの。だからちょっとの間だけ離れて?」
 
「嫌です」
 
今日のヒロトくんは随分と甘えん坊というか頑固だ。いつもの彼ならごめんねと言ってすぐに離れるのに。
そしてヒロトくんは少しだけ躊躇ったように口を開いた。
 
「俺、最初はヒロトさんの代わりでもいいと思ってたんです。だけど、渉さんと一緒にいるとやっぱりヒロトさんの代わりの俺じゃなくて、俺自身を好きになってほしいと思うようになったんです」
 
私に回された腕が少しだけ震えていた。
 
「ヒロトくん、私は…」
 
「…すみません。急にこんなこと言って。でもこれが俺の気持ちですから」

私も、言わなくちゃ。本当のこと。今の私の気持ち。
私は回されている腕をそっと緩めてヒロトくんの方へ体を向けた。ヒロトくんは今にも泣き出しそうな顔をしていて、けれどもそんな顔もかっこいいんだから反則だ。
 
「ヒロトくん、3年って長いね。私がヒロトくんのこと好きになるのに3年は十分な時間だったわよ?」
 
私が恥ずかしながらもそう言うとヒロトくんはきょとんとしていて驚いたように口を開いた。
 
「それって、どういう…」
 
いつものプレイボーイで自信満々のヒロトくんはどこへ行ったのやら。今私の目の前にいるヒロトくんは年相応の男の子だった。
 
「だから、私はもうヒロトくんをヒロトの代わりとして見てないってこと。今の私は吉良ヒロトじゃなくて、基山ヒロトくんのことが好き」
 
こんなにもストレートに「好き」だなんて言ったのはいつぶりだろうか。多分最後に言ったのはヒロトに向けてだった気がする。
 
「俺も、好きです…っ。付き合い始めた頃なんかと比べものにならないくらい渉さんが好きです」

とうとうヒロトくんが泣き出してしまったから私は赤子をあやすようにヒロトくんを抱きしめて背中をさすった。
 
「うん。私も好き。ていうか、愛してる、かな」
 
その言葉は紛れもなくヒロトくんに向けて言った言葉であった。
 
随分と遠回りしたけれど長い時間を経て私たちはやっと、
 



「敬語、そろそろやめて…」
 
「わかったよ、渉」
 
にっこりと微笑んだヒロトくんは私にキスをして「ごちそうさま」なんて言うもんだから、やっぱりとんだプレイボーイだ。
 
 



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