「私、綱海は受験のこと忘れてると思ってたの」
 
「流石の俺もそれはねぇよ」
 
私の横でからからと笑う綱海。
受験生なのに勉強もせず呑気にサーフィンばっかりしてたかと思うと突然宇宙人を倒すとか言い出して行方をくらませた。帰ってきたかと思うと今度は世界大会だと言い世界へ旅立ったりこいつはいつからこんなにサッカー馬鹿になったんだと正直呆れた。
 
そんな綱海が今朝突然私の家に乗り込んで来て勉強教えろとあまりにうるさいものだから押しに弱い私は綱海に勉強を教える羽目となった。しかも、渉と一緒の高校行きたいから、なんて言われたら断れるはず無い。
 
「さっきから全然進んでないじゃん」
 
綱海の手元にある数学の問題集に目をやると先ほどと全く変わらぬページが目に付いた。
 
「あー、飽きた」
 
「いやいや早いよ。まだ初めて10分も経ってないし!しかも私が自分の勉強時間割いてあんたに教えてんのに飽きたとか言わないでよ」
 
「ははっ、悪ぃ悪ぃ。じゃあここ。教えて」
 
ほんとに反省してんのかこいつ、と内心悪態を付いたが結果的に綱海のやる気は回復したらしいのでまぁいい。
綱海が指を指した問題の方へ目をやるとそこに書いてあったのは連立方程式の問題。
 
「それはこの式をХに代入すれば解けるよ」

私が言うやいなや綱海はシャーペンを動かし始めた。一回言えばすぐ理解して応用問題まで解き始めた綱海に感心しながらこれなら別に私が教える必要なんてなかったんじゃないかと思った。だいたい答えの解説見れば綱海なら理解できるだろうにわざわざ私に教えてくれだなんてよくわからない奴だ。
私がそんなことを考えているうちに綱海はそのページを終わらせていてまた飽きたという風に私のベッドにダイブした。
 
「ちょっと、人のベッドで寝ないでよね」
 
「いいじゃん渉」
 
まずい。こいつ完全に寝る体勢だ。綱海は寝起きが悪い。それはもう、普段の綱海からは想像ができないぐらい悪い。寝起きの綱海を家に送るのだけは嫌なので私は睡眠を妨害しようと寝転がっている綱海の上にダイブしたり無駄に大音量で音楽をかけてみたりしたのだが一向に起きあがろうとしない綱海に私はついに痺れを切らした。
 
「もういいよ。私一人で勉強するから綱海は受験落ちればいいよ」
 
机に向かい問題集を広げた。
私は連立方程式をすらすら解いていく。
 
「なに」
 
急に頭に重みを感じたかと思えば案の定後ろから抱きしめられていて私の頭に顎を乗せていた。
 
「落ちればいいとかひでーよ」
 
「聞こえてたんだ」
 
私は相変わらず問題を解くために手を動かしている。
 
「俺は渉と一緒の高校行きたいぜ。高校一緒なら渉とずっと一緒にいれるからな」

私の手が、止まった。
あぁ私、動揺なんかしちゃって恥ずかしい。
 
「…あっそ」
 
「渉、動揺してる?」
 
変なところで鋭い奴だ。
 
「わかりきったこと聞かないでよ」
 
馬鹿、と付け足すと綱海が「そういうとこ可愛い」なんて言うから私の顔はきっと真っ赤だ。
 
「一緒の高校行くんでしょ!私ここわかんないから教えて!」
 
私に勉強を教わりに来た綱海が逆に私に勉強を教えるなんて変な話だが今の私にはそんなことはどうでもよかった。
私が指を指したのはさっき綱海が解いていた応用問題。
 
「連立方程式は二人いないと解けないからな」
 
綱海がよくわからないことを言ったのでとりあえず、
「私、応用苦手だから優しく教えてね」
と言っておいた。
 
 




連立方程式は、式が二つあって初めて解けるものなのです。
 
 



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